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料理

 その日。

 作治はアミーラとマルレーネと共にメイフラワーハウスで昼食を楽しむ、ことになった。


「解せねぇ・・・」


 作治はつぶやいた。


「何が解せぬのだ?」


 アミーラは尋ねた。


「そうですよ。お蕎麦。おいしいじゃないですか」


 そう。三人は蕎麦を食べていた。

 だが、作治の知っている蕎麦とは違う。

 麺の色。太さ。味は確かに蕎麦のそれだ。

 だが、茹でたキャベツ。ニンジンが和えられ、上から刻みチーズが降りかかったこれは果たして蕎麦と言えるのだろうか?


「まぁサクの故郷のニホンは三等国家らしいからな。蕎麦という素晴らしい作物がなくとも不思議ではない。ニホンが妾の祖国魔王領の植民地になった暁にはニホン全土で蕎麦栽培と、蕎麦料理を広めてしんぜよう」


「っていうか、なんでこの国に蕎麦があるんだ?」


「あ、それは魔王軍とは関係ないらしいですよ」


 ちゅるちゅると、チーズ味の蕎麦を啜りながらマルレーネが言う。


「五十年前、ニホン人の英雄タナカ・ショーイが食用になりそうな草木を探して散策していたところ、偶然に山で発見したそうです。小麦が育たない寒く、痩せた土地でも育つとか。料理法もタナカ・ショーイが工夫なされたそうですよ」


 ひょっとしてその蕎麦。五十年前にタナカとかいう日本人が持ち込んだ奴じゃないのか?

 そんな事を思いながら作治はチーズのかかった蕎麦にフォークを入れ・・・られない。

 テーブルの上にフォークがなかった。

 あれ?アミーラさんはともかく、マルレーネさんもパスタを手で掴んで食べていないか?


「ねぇ二人とも。なんかパスタを手で掴んで食べているような気がするんだけど」


「掴んで食べておるが」


「食べてますが」


 さも当然。と言った風に二人は答える。


「手が汚れるよ?」


「洗えばよいではないか」


「汁物以外は手で食べるのが普通ですよ。それがどうかしたんですか?」


 さも当然。と言った風に二人は答えた。

 この世界に来てもうすぐ一ヶ月。

 作治はちょっとだけ躊躇したが、やがて産まれて初めて素手で蕎麦を食す決意をした。

_________________


 昨今は(2015年現在)は異世界料理ブームらしい。

 しかし日本で料理している知識が、そのまま異世界で役に立つか。

 そうそう上手くいくかどうかはわからない。

 例えば調理器具。

 平均的な中世ヨーロッパ風ファンタジー世界には、電気炊飯器も電子レンジもないだろう。

 その反対に魔法使いが異常なまでに幅を利かせている世界ならば空気から食料自体を産み出す魔法すらあるかもしれない。

 食材に関しても(もっぱらこっちがメインだろう)同様で、例えば小麦や米ではなく、栗を主食にする異世界だってあるかもしれない。

 どうでもいい話だが、中世のイタリアにはパスタ職人が加盟する、『パスタギルド』なるものが存在する。

 そこではパスタを造る職人の労働時間、製品の品質、規格、製造方法、価格、販路などが細かく規定されていた。

 宴会や祭りの準備、困窮者の救済もギルドの役割であった。

 こうした食べ物屋のギルドは、当然ながらパン屋にも、肉屋にもあった。

 ところで、ある日の深夜。

 呼び出された一人の青年がいる。


「街から遠いところにわざわざ呼び出してすまんね。ところでパーティなど開かれない」


「私はパンギルドから派遣されてきた」


「野菜ギルドから派遣されてきた」


「肉ギルドから派遣されてきた」


「魚介ギルドから派遣されてきた」


「菓子ギルドから派遣されてきた」


「酒ギルドから派遣されてきた」


「調味料ギルドから派遣されてきた」


「なに?まだ自分が呼び出された理由がわからないのかね?まぁそれでもかまわんよ。これもギルドに加入するすべての料理人を護る為なのでね。でははじめるとしようか」

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