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小麦粉

 円環の月が煌々と輝く真夜中。

 イスカンドリアの港に、対峙する人影があった。

 その数、三体と一つ。


「魔術師ギルドの秩序を乱す魔術師、というのは他でもない。君の事だ」


 リーダー角の壮年の魔術師は言った。


「三人がかりでたった一人を相手にするのは卑怯だと思うかな?だがこれも守るためだ。我ら魔術師の秩序と、そして名誉を」


 青年の魔術師は言った。


「魔王領で好き放題暴れるなら構いません。他国ならば、まぁ我が国に影響が出ない範囲であれば大目に見ましょう。ですが貴方は明らかにやりすぎた」


 女性の魔術師は言った。


「三人がかりで君を処分させてもらおう。構わないね?もちろん君に拒否する権利はない」


 港に積み上げられた輸出用貨物の木箱の上に腰をかけた若い魔術師は、その問いにこう答えた。


「あんたらは俺より強いのかい?」


「私は雷光の魔術師。私の雷撃は百万ボルトで半径百メートルの範囲の敵に百発百中する」


 青年の魔術師は言った。


「私は透明化の魔術師。自分だけでなく味方の姿まで透明にすることができるわ」


 女性の魔術師は言った。


「そして我は百身の魔術師」


 壮年の魔術師は言った。

 壮年の魔術師が二人。四人。八人。十六人。三十二人と増えていく。

 いや。壮年の魔術師だけではない。青年の魔術師と女性の魔術師も三十二人に増えた。


「これは単なる幻や分身ではないぞ。半径百メートルの範囲に自分とそのものを造り出すことができる。攻撃力防御力魔力その他すべて同じ。それが三十二人だ」


「さらに透明化し」


「百発百中の雷撃をお前に加えるのだ」


「もはや貴様には逃げることも我らに勝つこともままならん。これにて華麗なるとどめを」


 木箱の上の魔術師は、再び質問をした。


「ところで、お前ら。『粉じん爆発』って知っているか?」


 その問いに、三十二人に分身した透明化した百発百中の雷撃の魔術師たちはこう答えた。


「そんなものは知らん」


「じゃあたっぷりと教えてやるぜ!」


 木箱の上の魔術師は、自分の座っていた箱を、思いっきり蹴飛ばした。

 それが戦いの狼煙となった。

 真夜中の戦いは、円環の月を一瞬だけ赤く染め上げ、一瞬で終了した。


    ~~~~~~~~~~~~~


 翌朝。

 ジョン・ファストルフはイスカンドリアの港で現場検証を行っていた。

 遺体は三つ。すぐそばには大きく黒い焦げ跡。


「将軍に報告します。魔術師の見立てでは爆発は何らかの魔法によるものと思われます」


 街の警備兵がファストルフに伝えた。


「被害者は三人。女性が一人。男性が二人」


「黒焦げなのによくわかったな?」


 そのファストルフの問いに、


「女性特有の臓器がありますので。と、医師はもうしております」


 と、いささか立腹そうに女性兵は答えた。


「ついでに身元も判明しました。イスカンドリア魔術師ギルドのオルテガ様とそのお供の二名」


「なに?誠オルテガどのか?!」


「御存知なのですか?」


「百身のオルテガ殿と言えば魔術師であるにも関わらず、魔術に頼らず拳で戦う武人であるはず」


「そうなのですか?」


「うむ。確か魔力で二、三十人ほどに分身して戦うのだ」


「それ。魔法使っているじゃないですか」


「だが、重たい剣や鎧を着て戦うと、激しく魔力を消費してしまうため、常にパンツ一丁の姿で戦うと言っておったな」


「ただの変態じゃないですか」


「それにしても一人で十個師団の魔族を相手にできる真の豪傑を葬るとは。相手は一体どのような敵であったのか」


「いや。この人ただの変態でしょう?」


「ファストルフ将軍何かあったのですか?」


 突如、凛。とした女性の声をかけられた。

 ロココ様式のドレスを着た女性と、そのお供の女中。


「これはこれは。マレニセント殿」


 ファストルフは丁寧に腰を曲げてお辞儀をした。


「お知り合いですか?」


 その女性警備兵の問いに、


「親戚の者です」


「娘です」


 ファストルフとマレニセントという名前らしい貴族令嬢はそれぞれそう答えた。

 どうやら複雑な関係の娘らしい。


「ところで何があったのかご説明願えるかしら。将軍」


「それがここで魔術師同士の戦いがあったのですが。百身のオルテガという高名な魔術師とその伴の者が何者かの手によって一方的にやられてしまったようなのです」


「それなら簡単ですわ。共の者に女性がいたのでしょう?」


「はい。そのようですが」


「そのものを人質にとって、分身の術を使うなとでも命じたのです」


「成るほど!犯人はとっても卑怯な奴だったのですな!!よし。お前達、卑怯者を探すのだ!」


 ファストルフのそのアバウトな命令に、「それじゃあ手がかりになんないよ・・・」とぶつぶつつぶやきながら街の警備兵たちは散って行った。

 ファストルフと街の警備兵が去った後、女中は自分の主にこうささやいた。


「この近くに新しい菓子屋ができたようですね。ちょっとよってまいりませんか?」


「菓子屋?そんなものどこにありまして?」


 マレニセントの問いに、目の見えない女中はある方向を指さした。


「ほら、あちらでございます」


 そこには、


『ゴブリン海運 輸出用高級薄力粉』


 と書かれた木箱が真っ二つになって転がっていた。

_____________________


 粉じん爆発という現象がある。

 空気中に小麦粉の粉が散らばると、たとえほんのわずかな火花であっても大爆発を起こす。

 小麦自体は元々可燃性の物質であり、それに酸素が十二分混ざり、そして火種を放り込むことで圧力と火炎を伴うガスが発生する。

 冗談みたいな話ではなく、過去四十六年の粉じん爆発の部門別犠牲者は石炭が最も少なく、農産物が金属類についで死傷者が二位。百二十八人が犠牲になっている。(2015年現在)

 新宿池袋でもヴィクトリア朝のロンドンでも粉じん爆発は起こるのだ。

 『日本製粉』と書かれた車が走っていたり、倉庫に小麦粉の袋を運び入れている人がいたら、


「ああ、また粉じん爆発が起こるのか。疲れるなぁ」


 くらいに思っていた方がいいだろう。

 さて、小麦粉の話題に入ろう。

 小麦を製粉した物が小麦粉である。

 パン、麺類、菓子類、揚げ物のつなぎなどに用いられる。

 ただし小麦は炭水化物なのでこれだけを食べ続けると栄養不良をおこしてしまうだろう。

 肉や野菜などと組み合わせてバランスの良い食事を心がけたい。

 加工済みの食品では長期保存ができないが、小麦粉なら冬を越すことも容易であろう。

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