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香水

「ヒャッハー!金のない奴がするぜー!!」


「魔力も微々たるもんだぜー!!」


「おまけに俺様の方がイケメンだぜー!!」


「なんなんだお前らは?」


 この世界で産まれ、この世界で育った冒険者であるマクスは得体の痴れない三人組に絡まれた。


「質問されたから答えてやるぜぇ!」


「俺達が何者かもかわからない下等な中世ヨーロッパ世界人に教えてやるぜぇ!」


「何しろ俺達は神に選ばれてこの世界にやってきた、転生チーター日本人様だぁ!!!」


 そして三人はポーズを取った。


「俺様は魔力チーター!世界最強の魔力の持ち主!」


「金持チーター!金の力で神すら倒せる!」


「イケメンチーター!お前達下等な中世ヨーロッパ風世界人より遥かにイケメン!!」


『三人そろってジェットストームチーター!!』


 おかしな三人組はマクスの前で奇妙なポーズを取った。


「はいはい。じゃあな」


 マクスは軽くめまいを覚えつつも三人の横を素通りしようとした。


「待ちたまえ」


 すっ。

 三人の中の一人。太った眼鏡をかけた男がマクスの行く手を遮る。


「ここで遭遇したのも何かの縁だ。ジェットストームチーター中でも最強のこの金持チーター様が君に稽古をしてあげようじゃないか?」


 金持チーターは眼鏡を外した。彼は眼鏡を外してケースにしまうと、左手に紙袋を持ち、右手で袋からから揚げを取り出しながら食べ始めた。

 そんな彼に美形のイケメンチーターは布で目隠しをする。


「なにしてるんだ?」


「稽古をしてやると言っただろう?君は剣士のようだ。僕に一太刀でも浴びせる事ができたら、金貨を百枚。くれてあげようじゃあないか」


 なんだかよくわからんが凄い自信だと、マクスは思った。


「一発でいいんだな?」


 仕方ない。このへんてこ三人組と少し遊んでやる事にしよう。マクスは剣を抜いた。

 相変わらず金持チーターとやらはからあげをくっちゃくっちゃしているだけである。

隙だらけだ。

 怪我させない様に剣の腹で軽く打つだけにした。


「あれっ?」


 手ごたえがない。

 金持チーターはマクスの横をすり抜けた。マクスが振るった剣に当ることなく。

 振り返るマクスの前に、金持チーターは咥えていた小さな皮袋を石畳の道路に落とした。


「金貨一枚に銅貨二枚」


「はっ?」


「君の財布の中身だ。確かめたまえ」


「何を馬鹿な事を言っているんだ。俺の財布は・・・ないっ?!」


 マクスは懐を探った。財布がない。

 道路に落ちた財布を拾う。中身は確かに金貨が一枚に銅貨が二枚。

 いやまて。

 なぜ金貨が一枚入っているんだ?今朝、「すいません今週末までには宿代まとめて払いますんで」とメイフラワーハウスのコーヒーメイドに頭を下げた時の財布の中身は、確かに銅貨二枚だったはず。

 この綺麗な一枚の金貨はいつ俺の財布の中に入ったんだ?


「その金貨は僕に敗北した残念賞として進呈しよう」


「お、お前両手に物を持っているよな?右手に袋。左手にから揚げ。一体どうやって財布の中に金貨を・・・!?」


「ふふふ。言ったろう?僕は最強のチーターであると」


 から揚げを食べながらチーターは言った。


「この世界には、いやこの世界以外にも多くの転生チーターという者は存在するのだ。彼らは皆一様に金持、貴族に転生したり、前世の金をそのまま引き継いで最初からやり直し人生したり。だから僕はこの世界に産まれ出ずる際に、神に願ったのだ。彼らを唯一凌駕出来る能力を」


「なんだよそれ」


「それは『財布の中の金の臭いを嗅ぎつける』能力だ」


「はっ?」


「僕は六秒後でも、六時間後でも、そいつが持っている財布の臭いをかぎつけることができる。臭いで未来予知する事が可能なのだ」


「財布の臭いで未来がわかるだなんて、随分と面白い殿方ですこと」


 金持チーターはロココ調ドレスを着た女性から声をかけられた。


「では次はわたくしに稽古をつけてもらえますかしら?もし、私の財布を奪う事ができたら、そうですわね。私の乳房を堪能する権利ぐらいは差し上げますわ」


「ふふふ。ではお相手差し上げましょう」


 金持チーターはロココ調ドレスを着た女性と交差する。

 すれ違いざまに女性が持っていた鉄扇で顔面をぶん殴られ、金持チーターは派手に転んだ。


「なぁにぃいいいいいいい!!!」


「馬鹿なっ!?金持チーターは『臭い』で未来を予知できるはずっ!!相手がどこにいるか、どこから攻撃してくるかは完全に予測できる。この世界で金持チーターに勝てる者などいるはずがっっっつ!!!!??」


 イケメンチーターと魔力チーターは驚きまくった。


「これを使わせてもらいました」


 ドレスを着た女性は、赤い液体が入った小瓶を見せた。


「薔薇の香りがする香水ですのよ。お財布の匂いとやらが嗅げまして?」


 笑顔で尋ねる女性に、金持チーターは酷く、突き放す口調で言った。


「アンタとすれ違った瞬間、香水の匂いに隠れてアンタの財布の匂いが嗅げたぜ。確かにな」


「あら。でもちゃんと私の勝ちだったでしょう?」


「『予言する』ぜっ!!!アンタは今日から六日後、必ずやすべての財産を失うっ!!俺の未来予知からはどんな能力であっても逃れることはできねぇっつつつ!!!!」


 それだけ言うと、金持チーターは道路に落ちたから揚げの袋を拾って去って行った。


「お、覚えてやがれっ!!!」


「お、前たちは御終いだぁ!必ずだぞ!覚悟しておけよ!!」


 魔力チーターとイケメンチーターも後から続く。


「なんか仲間扱いにされてるなぁ。とりあえず礼を言っておくわ」


「礼には及びません。貴方も冒険者なのですから、あのような『ちぃたぁ』なる無法者達から国を護るために頑張ってください」


「わかってるって」


 通りすがりの冒険者と言葉を交わすと、ドレスを着た貴族風の女性は去って行った。

 金持チーターの警告?

 そんなもの覚えているわけがない。

 彼女は十年前、母が死んだ日から、神も、神から力を授かった連中も。

 信じてはいないのだから。


________________________


 各種の香料をアルコールにで薄めた物が香水である。

 香水の材料としては花香。植物ベースが基本である。木の香りは動物の神経に安らぎを与え、柑橘系の香りは脳の働きを活発にすると言われている。

 また植物の香りというのは動物の性の臭いを消す効果があると言われている。

 中世ヨーロッパの貴婦人たちは肉食中心の生活に不衛生が重なって体臭を隠すため、香水が発達したと言われている。

 しかし世の中はいうのは不思議な物で、現代社会から中世ヨーロッパ風ファンジー異世界に胡椒を持ち込んで大儲けしようと考える者はいても、香水を持ち込んで売ろうと考える者はいないようだ。

 現実の中世では香水は輸出品だったし、東インド会社が設立された際、インドや東南アジアでイギリス産の毛織物を売ろうとしたが、さっぱりだった。

 だが、香水は売れたようだ。

 暑い熱帯地方で毛皮のコートを着用する者はいなくとも、香水を使う者はいたようである。

 イギリスは寒い。冬用のコートは、毛織物はいるだろう。

 対してインド、東南アジアは赤道下。暑くて重たいコートを高い金を出して買う人間などいるはずがない。

 ヨーロッパの人々にとって足りなかったのは自分達と違う環境で暮らす人々がどんなものが必要であろうかという想像力であったに違いない。

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