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野外用寝具

「三等民族の割にはよく考えたではないか」


「まぁね。これなら目立つし、何を売ってる店だか誰にでもすぐわかると思うよ」


 アミーラの道具屋には、作治のアイデアで店の前にテントをぶら下げることになった。

 開店したらテントを広げて二階の窓から宙吊りにし、閉店の時間になったら折り畳んでしまう。

 これなら通行の邪魔にならないし、客引きにもなる。


「こんにちは、サク様。アミーラ様」


 マルレーネがチャッピーを伴って歩いてきた。そして店の前で止まる。


「こんにちは。マルレーネさん」


「妾の店がより目立って客がたくさん入るよう、サクが工夫を凝らしておったのだ」


「まぁ、サク様が。一体どのような?」


「ほれ、これじゃ」


 アミーラは目の見えないマルレーネの為に二階の窓からテントを下ろし、彼女に触らせてやった。


「ほれ。これがテントじゃ」


「まぁこれがテントいうお洋服なのですね」


「えっ?」


 作治とアミーラは顔を見合わせた。


「いや、テントいうのはですね」


「あら?でもこの服。骨が入ってます。たいへん着にくそう」


「えっと。このテントと言うのは持ち運べる家のようなものでして」


「え?でも家と言うのは木で作るか、でなければ石造りでしょう?」


 しばしマルレーネと会話して作治達は気づいた。

 今までテントを使っていたのは魔王領に住む民だけだという事に。

 マルレーネは今日、初めてテントというものを知ったという事に。

 それどころか今まで人類諸国連合にはテントいうものがなかったという事に。


「サク!この手紙を商会まで届けてこい!テントを売るぞ!冒険者にバカ売れすること間違いなしだっ!!」

「合点承知の助!!」

「でしたら、とりあえず100貼ほどいただけますか?主に相談してみます」

_______________________________________


 町に、村にいれば宿屋なり自分の家なりのベッドでぐっすり休むことが出来よう。

 だが、現実は非常である。山野に、荒野に、砂漠に宿屋なんてない。

 それ以前に砂漠なら砂嵐と高熱、雪原なら極寒と猛吹雪が体力を冒険者の生命力を削り取っていく。

 入念な準備がなければ自然の猛威の前に力尽きる事だろう。

 一番良いのはテントである。雨風を防ぎ、防寒防熱(あくまで常識範囲だ)能力もある。

 蛇や毒虫が入らぬよう入念に下草を払い、ペグでしっかりと固定されたテントの中でぐっすりと朝まで休めば気力、魔力はすっかりと回復しているはずだ。

 実際の中世ヨーロッパ人は、十字軍遠征でイスラム教徒が使っているのを見たのが最初だったらしい。

「こんな便利なものがあったのか」とすぐに取り入れ、一気に広まったそうだ。

 問題はあまりにも深い眠りにつきすぎると、万一敵の奇襲があった際に対応がとれなくなってしまうことだ。夜営する時は常に見張りを立てるようにしよう。

 現代から転生した人間がいるなら寝袋を開発するかもしれない。確かに暖かいかもしれないが、両手両足がすっぽりと袋の中に入ってしまって万一敵襲があった時の対応がとれないだろう。

 となるとやはり毛布が基本となる。とりあえず真冬の自室でストーブやエアコンを切った状態で毛布にくるまった状態になってみるといい。その有難みが実感できるはずだ。

 しかしそれも乾燥した状態での話である。一か月、ニか月の長期の旅をするとしてその間一度も雨に降られないという保証はない。

 在りし日の高倉健が主演した八甲田山という映画がある。日露戦争を題材にした映画で、ロシアと戦争をするからその訓練のために雪山に登っていく。

 地元の住民が猛吹雪になるからやめておけと警告するにも関わらず雪山に登った一行は案の定吹雪に見舞われる。

 若かりし頃の大竹まこと演じる兵士が立ちションベンをすると尿が山の冷気で一瞬で凍り付き、内臓が凍って死んでしまう。

 よく、「俺は大気中の水分を凍らせてなんたら」という魔術師がゴミ箱に投げるほどいるが、そんなレベルではない。

 自然の力の前に人間は無力なのだ。

 八甲田山に登った旧日本軍の兵士達が身に着けていたのはぺっらぺらの冬用外套のみ。たぶんユニクロのヒートテックを着こんでいた方が暖かかっただろう。

 冒険者ならば保温性防水性に長けた衣服を準備し、彼らのようにならないようにすべきである。

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