眼鏡
クリサニーアの森近郊の村。
ジャックは王国警備隊の屯所の中で、頭蓋骨を虫眼鏡で見ていた。
「おいジャック。アンデットを造る魔術師じゃあるまいし。そんなことをしている暇があったら提出書類の作成を手伝ってくれんかね?無縁仏の埋葬は王国兵団員の義務みたいなもんだが、いわゆる縦割り行政のお役所仕事ってやつでな。法王庁に提出する書類は一々人数分用意せんといかんのだよ」
ニシン将軍は身元不明者埋葬手続き依頼書の羊用紙をジャックにみせる。
書類には発見した場所や引き取り人がいない遺体を法王庁共同墓地に埋葬してくれるよう依頼することを、水で洗い流せるインクで書き記す決まりになっている。
羊用紙は高いので、間接的に宗教献金みたいなものだ。
「ニシンのオッサン。こいつを見てくれ」
ジャックは虫眼鏡で頭蓋骨のある部分を見せた。
「これは、傷だな?」
「そうだ。それも獣にかじられたんじゃねぇ。明らかに刀傷だ」
「ふむ。じゃあ魔物か?」
「そのことなんだが、オッサン。あの遺体がたくさん見つかった場所。すごく不自然だとは思わねぇか?」
「というと?」
「人里から1時間と離れていない。水もある。シカがいる。当然シカが食う植物もある」
「私なら1か月。いや、1年は生きていられるな」
「でだ。身元を証明する物が何もなかった。衣服の類は腐っちまったかもしれねぇ。だが金貨や銅貨はどうだろうな?」
「獣はそんなものは食わんだろうな」
「ならこうは考えられねぇか?あの死体は事故じゃねぇ。山賊に襲われて突き落とされた」
「なるほど。それなら金貨のない理由も納得できる」
「水と食料。程よく人里から離れた森の中。山賊の寝床にはぴったりだ」
「よし、兵を集めて山狩りをおこなおう」
「無駄だぜ。オッサン。オッサンがニシンを持ち帰ってから、何度山道を塩とニシンを積んだ馬車が走っている?」
「最初の10回は私が。それ以後は冒険者を雇った商人だったり、訓練を兼ねた軍の部隊が徒歩で運んだりしておるが」
「そのあいだ山賊に襲われたって報告はねぇ。第一俺らが発見した馬車の残骸は朽ちてボロボロだった。てことは、だ」
ジャックは頭蓋骨を虫眼鏡で叩いた。
「この仏さんが頭を叩き割れてくたばったのは1年や2年前じゃねぇな。もっと以前だ」
「となるとマジノス迷宮ができた頃。魔軍大侵攻があった50年前から30前くらいかな。その頃は戦力の再編成どころか人間の領土はボロボロで、あちこちに盗賊団が闊歩しておった」
ニシン将軍は立派なひげをさすりながらどこか懐かしく語った。
「偉く詳しいじゃねぇか。俺なんてまだ産まれてねぇぞ」
「あの頃はローヌは貧しくてな。私も靴も買えず、裸足で学校に通ったもんだ。それはそうとしてジャック」
ジョン・ファストルフは羊用紙をジャックに渡した。
「書類の方は頼んだぞ」
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ぼやけた視界がそれをかけるだけではっきりと遠くまで見渡せる。
そのせいで眼鏡というのは視力の上昇効果のあるアイテムと扱われることが多いようである。
神話の時代には一つしかない目玉を共有する姉妹とかいたようだし、これは遠い未来、巨大ロボットが大地を闊歩するようになっても変わらないだろう。
眼鏡を使いこなしている有名な主人公といえば江戸川コナンを外すことはできない。
彼の眼鏡は発信機の対象を追跡するレーダー、望遠鏡、防弾とこれでもかと機能を搭載している。
特殊な眼鏡をかけていないとモンスターが見えないとか、罠が発見できないというのもよく見るお話だ。
眼鏡に見えるのは本人が持つ本来の実力を抑えておくための拘束具であり、外すことで真の実力が発揮できるという場合もある。
たが、私は眼鏡属性持ちだ。そのようなヒロインには殺意すら覚える。
締めくくりに変わった眼鏡を紹介しておく。オズ大王は自分の都はエメラルドでできているから、エメラルドの輝きで目がつぶれないよう、訪れる者達に事前に眼鏡をかけさせる。
実はこれは単に緑色のガラスをはめ込んだけのもので、都は単なる石だ。ただ、緑のガラスを通してみるから全部エメラルドでできているように見えるのである。




