地図
猛将ジョン・ファストルフ。別名ニシン将軍。
なぜこの奇妙な二つ名がついたかといえば、それなりの理由がある。
ニシンを積んだ馬車を豪雨の中、長槍で魔物を蹴散らしながら山林を疾走。それをローヌ王朝に献上した。
魔王領に行くには二つの道しかないとされていた。イスカンドリアから出る魔王軍の貿易船に乗るか。
あるいは魔物と罠が無数に待ち受けるマジノス迷宮を抜けるか。
当然ながら貿易船には兵隊は乗れない。許可証がないとだめだし、手荷物検査が厳しい。魔術師には魔力を減衰する薬まで飲めと命じられるそうだ。
もう片方のマジノス迷宮を超え、魔王殿ヒラヌマに辿り着いた冒険者は過去50年間に10人もいないという。
「だからこそ、このクリサニーアの森の地図作成が必要なのだ」
「それとニシンの献上がどう関係するんですか?」
ファストルフは部下たちに熱弁する。これで何度目だろうか。
「魔王領からくる貿易品には塩がある。つまり魔王の支配地域は海に面しているということだ。そしてこのクリサニーアの森を抜けると海に面した人間の国に出る。つまり、この国から陸路で行けば、
マジノスの迷宮で魔物と戦わずとも、魔王殿ヒラヌマに総攻撃をかけることが可能となるのだ!」
「ニシンのオッサンよう。そんなこと言って豪雨の中長槍振り回して馬車走らせられるんのはあんたくらいなもんだぜ?」
「ジャック。お前できんのか?」
「どっちか片方しか無理だな。無理に両方やろうとしたら、ほれ。あそこの連中の仲間入りだ」
ジャックが指さす方向には、崖路から転落したであろう馬車の残骸と、人骨が散らばっていた。
「なんと。哀れな。蘇生術は無理でも、せめてきちんと弔ってやらねば」
一行は地図作成のための地理調査を中断し、遺体の回収にとりかかった。遺体の脇で休憩がてらニンジンのスープを頂きつつ作用を続け、三時間ほど。
「えーと。人間が15人分。馬が二頭分。それに犬が一匹分」
「馬は馬車をひくためとして、なんで犬が?」
「死体を食いに来た野犬じゃないのか?ほら」
こちらの様子をうかがう親子連れのシカがいた。
「シカがいるぜ。こいつらが山道から落下してもまだ息があったのならば、狩をして食いつないだはずだ」
「それにさっき小さな川があったな。飲み水として使うには十分だ」
「そもそもここは近くの村から歩いて一時間の距離だ。地元の住人なら嫁入り前の女子供でも十分に帰れる」
「じゃあ地元の人間じゃない、どこぞの貴族の御令嬢方の乗った馬車だっんだろうな」
「きっと蹴鞠遊びもろくにしたことないような連中だったんろうな」
「そうだな。さて、帰るか」
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今のコンピュータRPGには主人公の位置をピカピカ光って表示してくれるマップが標準搭載されている。
ファミコン時代はそんなものは存在せず、手書きで自分で作ったり、ゲームの攻略本が頼りだった。
世の中本当に便利になったものよう。
地図というのは街の地図、道路地図、山林、海図などいろいろあるが、どの種類でも既存の地図に自分なりの書き込みをしていくことは非常に重要である。
街の位置、食料品店の場所。水飲み場。目的の場所を随時書き込んでいく必要がある。
攻略WIKIをよく利用する人は「ここに回復ポイント」「セーブポイント」「罠多数」などと地図にあると思う。これらは地図に情報に書き込んでくれる人々がいるから正確な物ができあがっていくのである。
また地図があるからといって油断は禁物である。道路工事、崖崩れなどで本来使う予定だった道が使えない可能性もある。
また地図には情報の自動更新というのはない。例えば、区画整理。10年ぶりに帰ってきた故郷がまったく違う街になっていて、実母の家が更地になっていて、完全に迷い子になってしまうということもなくはない。
オンラインゲームの経験者ならアップデートだの、バランス調整などの名目で今まで通れていたはずの道が突如消滅してしまうことを何度も経験したことがあるはずだ。
地図つくりは面倒ではあるが、冒険者を目指すのならば地図を正確に作成したり、あるいはそれを読み解いて利用する能力は必須と言えよう。地図が必要な場所はなにも怪物蠢く暗黒の迷宮だけではない。
ここは通りなれた道だからと油断していると、実家の近くの森の中で遭難して餓死、という事にもなりかねないのだから。




