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地下牢

 長い廊下は、冷たい石造りの天井と床で出来ていた。

 壁の両側に存在する、いやつい最近まで存在していたであろう、

 つい最近、『外側』から叩き折られたような鉄格子が点在する牢獄を彼女は歩く。

 鉄格子を叩き折った怪力の持ち主はこの奥にいる。

 床に散らばるのは真新しい白骨死体。高級そうな毛皮や、宝石の指輪をはめたまま死んでいる遺体はおそらくはこの地下牢に『客』として来ていた金持ちなり、貴族なりだろう。

 となると砕けた鎧を着て、折れた武器を持った白骨死体は街の警備兵か、あるいはこの先にいる怪物の討伐を依頼された冒険者の哀れな末路か。

 通路の一番奥から数えて二番目右側。その場所にそれはいた。

 それは、巨大な黒い鳥に見えた。一瞬カラスにも思えたが、羽根の部分が茶色い縞模様であることが、カラスではない生き物だ一瞬で気づかせた。

 羽根の模様を彼女が確認したのとほぼ同時、腹の下から触手のように伸びる物がある。とてもフサフサしたそれは、彼女が右手に持っていたメイスに絡みついた。

 昔取った杵柄というべきだろう。培った感覚に従い手にしていたメイスを離さなければ、そのままメイスを持った右腕と共に全身を引きずられ、あの巨大な黒く、羽根が茶色い鳥の嘴で啄まわれていただろう。


『かえれうがいい。むのがしれらる』


 多少聞き取りづらいが、人間の言葉で巨大な鳥は語り掛けてきた。


「そういうわけもいかん。お前さんが身震いするだけでイスカンドリアの街全体が震える程の大地震が起きるのでな」


 タナカ・ショーイと共に不死公と戦ってから四十年余り。自分の余生はその半分もないだろう。

 残り少ない命の蝋燭だから無駄使いする心の余裕はあった。

 そもそもこの世に未練は四十年前から、あんまりない。今まで生きてきたのはタナカの遺言を果たすためで、それもほぼ達成している。

 だからこそ自分の命を惜しむような必要もない行動ができたといえる。予め自分が失敗した場合はイスカンドリアの街の住人をすべて避難させ、国の内外から有力な魔術師、冒険者を集めて街ごと怪物を吹き飛ばす算段を建てるようにとファストルフには言ってある。

 こういう場合にはそれが一番良いのだ。

 40年前と同様に。


「お前さん。いつからここにおる?」


 できるだけ。彼女は黒い兇鳥に優しく尋ねてみた。


『わがりはりんげんらりにおらられた。らんろも。らんにんも』


 今、人間に犯されたと言ったのだろうか?だとすればこやつは、いや。彼女は元人間。あるいは。


「そうか。お前さんエンプーサか」


 黒い恐鳥は驚いたように全身を震わせた。その巨躯が蠢いたせいで牢屋全体が、あるいは街全体が揺れたようだ。


「ンズェワカッタンデェスカッァ?!!」


「イスカンドリアの北、マジノス迷宮の間に聖アンジェリカ修道院というのがあるのは知っておるか?そこにお主らエンプーサを集めて匿っておる。なぜ人間の敵である魔物であるお主らを集めた場所があるのかじゃと?40年前にそれを造れと言った男がおってな。お前さんのように複雑な理由者達を集めるのだと。人間、魔物問わず、な。するとどうなる?そこには人の国と魔物の国を隔てる、完全なる中立干渉地帯ができるあがるのだ」


 黒い凶鳥は沈黙を保った。


「お前さん。人間と仲良くしたい気分にはなれんだろう。だが」


 老いた尼僧は怯鳥のくちばしを優しく触る。


「その人間のせいで自分が命を奪われるというのは癪であろう?腹の子を儂の修道院で産み落とし、いらぬならそのまま預けて魔王領に帰ればよし。そうでないなら母として生きるがよい。その子の血の半分は紛れもないお前の物なのだからな」


 叶鳥は息を吐き出すと、その腹の下から卵から転がり出て来た。

 卵はひび割れ、中からへその緒がカラザのように卵殻と繋がった胎児が産まれてきた。


「ほれ、お前の赤子じゃ。抱いてやるがいい」


 脅鳥は茶色い大きな翼を赤ん坊の方に出し、それからすぐに怯えたように引っ込めた。


「潰してしまうのが怖いのか?ならば人の姿に戻るがいい。ひと月前だが。半年前だが。一年前だが儂は知らぬ。ただ、昔の姿に戻って、この子をその胸で暖めてやりたいと願えばよいのだ」


 牢獄をゆがめる程の大きさだった狭鳥は、徐々に小さくなり始めた。

 そして床まで届く亜麻色の髪の女の姿になる。


「この地下牢にいた化け物は、儂が退治した。上にいる兵隊達にはそう言おう。儂について来い」


 それから12年。地下室にいた美鳥は、今でも聖イスカンドリア修道院を護っている。


________________________________________________________________________


 ダンジョン、とは、英語で地下牢を意味するらしい。そのせいか牢獄と言えば地下に設置するのがお約束らしい。

 一般的に牢獄は丈夫で分厚い石壁の狭い部屋で、看守によって厳重に監視されている。

地下牢には窓がなく、室内は湿気が篭り、囚人たちは基本的に風呂やトイレに行くことができない。

(ハーレムに送られる女性の場合は大切な商品なので、話は別である)

 極めて不衛生で寄生虫や病原菌が繁殖しやすく、体力のないものから次々と死んでいく。

 壁や床に囚人を拘束する鎖が取り付けられ、拷問が行われることも多い。

 このようにあまり御厄介になりたく場所であるが、物語の舞台としては非常に出番の多い所である。

 第一は牢獄から脱出するパターンである。

 装備品は奪われ、収容施設の詳しい構造は不明である。当然どれだけの監視の兵がいるかもわからない。脱出は困難を極めるだろう。

 第二は牢獄に捕えられている人物を救出する場合。脱出と比べ難易度は格段に下がる。その施設に関する情報収集、装備の調達、あるいは潜入経路をどうするのか。それらの選択権はすべて救助隊である冒険者に委ねられる。必要なら援軍を養成しても構わない。

 ただ、あまり準備に時間をかけすぎてしまうと牢獄に囚われている人物が拷問や処刑され、死んでしまう危険が増大する。

 それと、第三のパターンとして、冒険者自身が捕えた捕虜を拷問する場合である。

 重要な情報を所持している相手を捕え、拷問にかけ、しゃべった後は用済みとばかりに殺してしまう。

 まぁこんな事をするような主人公、英雄などいないだろう。つまりは悪党なのだ。

 牢獄に囚われた仲間や知人が拷問の末、秘密をバラシてしまっていても、彼又は彼女を攻めたりしてはいけない。

 まずはその人物と共に、このおそろしい地下牢から生きて逃げ出す事を考えるべきなのだ。

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