表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/64

上下水道

 石造りの天井高い地下下水道を流れに反響するのは、三人組の盗賊が奏でる足音だけだ。


「それにしても本当に綺麗なところですねぇ。お頭」


 手下の一人が親分に話しかける。誰かに、街の警備兵に聞かれる心配はまずない。

 ネズミもヒルも見当たらい。下水と言うのは名ばかりで、汚水どころか清流にも見える。

 その気になれば顔も洗えるし、飲み水にも使えるだろう。

 一応普段は沸かして飲むことにしてあるが。

 この奥には彼らの隠れ家があった。元々浮浪者達が寝泊りしていたらしく、ベッドやテーブルなどがあり、素晴らしい物件だった。

 元居た住人?もちろん”静かに出て行って”頂いた。

 この地下下水道はイスカンドリアの街全体に縦横無尽に張り巡らされている。

 堅牢で迷路のような構造だ。実際、迷い込んだ人間のものであろうか、下水道の一角に白骨遺体を見たこともある。

 その場所に、引っ越しの際に出た”ごみ”を捨てた。


「暮らしやすい上に街のどこにでも行けて、警備隊の連中にも見つかりにくい。寝城としては完璧ですよねぇ。お頭」


 返事はない。少し手前の暗闇をお頭の持つランタンの灯火がゆらゆらと照らしている。


「とりあえず今日のところは様子見でしたが、店構えや荷物の取り扱いの割にはろくに用心棒も雇っていないようですからね。楽で儲かる仕事になりそうですね」


 お頭の返事はない。そのまま普段寝泊りしている寝城がある曲り角を、

曲がらない。左に曲がるべきところそのまま直進していく。


「お頭。そっちじゃないですぜ。地図持ってるんでしょう。明りだって持ってるんですし・・・」


 不意に前方照らすカンテラの灯りが揺れた。


「お頭?」


 そのままカンテラは下水の中に沈み、光は冷たい水の中に消えた。


「おい、どうなって」


 盗賊は隣を歩いていた仲間に声をかけようとした。

 その仲間はこちらに何かを訴えかけような視線をしながら、口から血の泡を吹き、腹を巨大なフサフサした羽毛のようなもので貫かれている。

 そして、彼もまた、暗い下水の中に沈んでいった。

 仲間が大勢寝泊りしているであろうアジトはすぐそこだ。盗賊はそちらには向かわず、下水道内に悲鳴を響かせながら振り返らずに出口に向かって走っていった。


「蛇の目盗賊団の一人が自首してきたとな?」


 女王陛下の勅命を受け、族の一団が最近暴れているらしきイスカンドリアの街にやってきた初日にその報告を受けたファストルフ将軍は、自分はとてもついていると考えた。


「では、私自ら取り調べを行う。アジトの場所を吐かせて、一網打尽にしてくれるわ」


「既に申しております」


「ほう、それは益々幸先がいいな。早速討伐隊を編成しよう」


「いえ、それが」


 部下は、言いにくそうに将軍に報告した。


「何か問題があるのか?」


「まるで狂人のような言動をしておりまして。アジトは地下下水道にある。下水道にはとんでもない化け物がいる。みんな食われて死んでしまう。その様に申しているのです」


「なんだ。一介の盗賊団が化け物を飼っているとでもいうのか。必要ならば冒険者ギルドに斥候でも要請をしてだな」


 不意に、ファストルフ将軍は下から突き上げるような振動を感じた。

 彼がいる街の警備隊の本部が、いや。イスカンドリアの街全体が、揺れている。

 それは、地下下水道の深く、更に奥から伝わってくるものだった。


___________________________________________


 飲料水は勿論のこと、洗濯や料理に使う生活用水、職人が使う工業用水、農民が使う農業用水など、ファンタジー世界においても水は人間の生活にとって必要不可欠なものである。

 蛇口を捻るだけで当たり前のように水が出てくる生活を送っているとその有難みが感じられないが、綺麗な都市に住む人々に万遍なく生活用水を供給し、汚水を処理するには優れた上下水道の完備が不可欠となる。

 上水道は川や湖などの水源から水路を造ったり、地下水を井戸から組み上げて利用する。まともな水道会社は産業革命の頃まで存在しない。

 水道会社は産業革命により都市の水質汚染が人間の居住を不可能に近いレベルまで悪化させたため、必要に迫られて造られたという経緯がある。

 下水道は道路に溝を掘って側溝に流す物から、地下水道と浄化槽を兼ね備えたものまでさまざまであるが、上水以上に文明レベル、衛生管理の概念が発達した社会でなければ見られない。

 中世フランスでは汚物を二階の窓から道に投げ捨てるのが一般的だったのは有名な話である。

 上水道が冒険の舞台となる場合は、ほぼ間違いなくその水源地である。

 飲料水として利用されることも多いため、水質汚染は住民の健康被害に直結する。

 古代ローマは九十キロ以上もの長さの長大な水道を造り、ローマに住む人々に水を供給した。

 それだけでなく水質の維持にも努めた。水道の大部分を地下道にしたのだ。

 水の流れる場所が地下にあればゴミが入ることもない。水質汚染の心配は不要である。

 こうして集めて大量の水を市民に提供し、巨大なテルマエを造り、闘技場に水を張って船を浮かべ、海戦を再現したこともあったという。

 目に見えての水量変化、汚染等のトラブル処理を解決するため、冒険者たちは至急現地に急行することになる。

 下水道の場合は都市全体に張り巡らされていることが多く、その内部に盗賊団のアジトや邪悪な魔法使いの住処などが存在する。街の中なのに、水棲モンスターに出くわす事もあるだろう。

 また、陰謀蠢く悪の居城に地下水路から侵入したり、或は脱出を図るということも考えられる。

いずれにせよ、地下水路は地上と比べ遥かに危険な空間であることは間違いない。

 日常空間の真下に潜む、暗闇の脅威と戦うのも冒険者の仕事なのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ