薬草
作治達は聖アンジェリカ修道院にある菜園にやってきた。
「これは本来修道院で使う薬草類や、尼僧が食べる野菜を育てる畑でな」
アミーラはそう説明した。
「野菜でも薬草でも、必要なものを必要な分だけ持って行っていいそうだ」
「え?貰っちゃっていいの?」
「売上金を納めろとの条件付きでな」
「あ、やっぱり」
「それでも問屋を介さぬからかなり安くつくのだぞ」
そしてアミーラは畑に生える作物を指さす。
「これはフェルトザラート。安産の薬だ。尼僧院だからというわけではないが、大めに育ているらしい。こっちはイノンド。胃腸を整える。それでもって」
アミーラは独特の、不思議な香りのする植物を指さした。
「こいつがニガヨモギ。ベルモットの材料になる」
「ベルモット!それがベルモットになるのかっ!!」
作治は感嘆の声をあげた。
「ふ。ベルモットの材料も知らぬとは、所詮ニホン人は三等民族だな」
「知らなかった。そうか、これがベルモットの材料なのか・・・」
吉岡作治は日本から離れた遠い異国の地で、一つの真実を知ってしまった。
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中国には神農という人身牛頭の神がいたそうだ。封神演技に登場する伏羲と同じ時代の医学の神だという。
なんでも山で薬になりそうな薬草を探していたところ、間違って毒草を食べて死んでしまったらしい。
その後すぐ広大な中国を二分して殷周革命を陰で操る仙人界の戦争が始まってるから医者として死ねて彼は本望だっただろう。
人間は古くから薬効成分を含む植物を自然の中から見つけ出し、利用してきた。
これら医学的効果の植物を薬草という。
本来薬草類は人間の持つ自然治癒力を補助するもので、劇的なものではない。
ただ、ファンタジー世界に関してはこの限りではないようだ。
傷口にすりつける。あるいは服用することで即効性、少なくとも翌日には効果が実感できる。
体力を回復する効果があるものは薬草、毒消しの効果があるものは毒消し草と呼ばれる。
ファンタジー世界の毒消しは食べ物の毒。毒虫、蛇やサソリなどの毒。科学的に合成された毒にまで効果がある汎用性の高さがある優れものである。
月夜草とは満月の夜に収穫される特別な薬草で、特に効果が高いとされる。
なお薬草積みは本来女性の仕事とされている。
冒険者が許可なく違法な採取活動を行えば乱獲をしまくれば地元住民を敵に回しかねないだろう。
日本の戦国時代には「隣国の連中が国境を越えて草を取りに来た。武器を持って領主様と共に追い払った」という文献記述もある。傷を治すために摘んだ薬草一つで、世界全体を巻き込む大戦争が起きるかもしれないのである。
マンドラゴラは中世ファンタジーで恐ろしいほど有名な薬草である。
茎の上の方に幅の広い葉と黄色い花をつけた植物で、根は人間の形をしているが、雄株、雌株の区別はなく、実際には雌雄同体。根、葉、茎、種子、果実に至るまでアルカノイド系毒成分を有する。
掘り取る事自体に大変な危険が伴い、土から引き抜こうとすると根が悲鳴を上げ、聞いたものの命を奪う。
収穫する際は犬の体にロープでマンドラゴラを結び付け、自分の代わりに引き抜かせるのが常套手段という。もちろん叫び声を聴いた犬は死んでしまう。
こうして手に入れたマンドラゴラの根を、赤葡萄酒で洗い根を削ってから酢に浸して服用する。
このマンドラゴラ。中世ヨーロッパ原産の作物かと思ったら、なんとエジプト、ツタンカーメン王の墳墓の壁画に
マンドラゴラを摘む少女の絵というのが存在する。偉大なるファラオよ。少女にそんな危険な仕事をさせんでくれ。
資料によればマンドラゴラは古代エジプトで栽培されていたとあり、媚薬効果と受胎効果に優れた植物であり、その効果は抜群なものだったという。
日本は世界有数のHENTAI国家として知られているが、我々が今立っている場所は三千年前トゥト・アンク・クメン王がとうの昔に走り去った場所にすぎなかったのだ!




