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「くそ、なんてこった!」


 振り下ろされる骸骨剣士の斬撃を受け流しながらマクスは悪態をついた。

 雨風を凌ぐことができればいい。そう思い、森の中で見つけた朽ちかけた古い教会の跡を今夜の借り宿とすることに決めたことが本当に悔やまれる。

 冷静に考えればわかったことではないか。教会とは祈りを捧げる場所。捧げる相手はこの世界を創られた神。

 そして神の元へと召された人々の魂。

 ならば教会の近くに彼らの安息の場所、即ち墓地があるということではないか。

 仮眠につこうとしていたマクス達に墓から蘇ったスケルトンの群れが襲い掛かる。

 新たな仲間を増やす為に。彼らを仮眠ではなく、永眠に誘う為に。


「気を付けろアリサ!こいつらは手や足を二、三本を切り飛ばしたくらいじゃ死なない!!頭だ!!頭蓋骨を」

「七つ!八つ!九つ!」


 アリサは手にしたクワで景気よくスケルトンの頭蓋骨を砕いていた。


「十三!十四っ!じゅうごっ!!あ、マクスさん何かいいました?」

「あ、えっーと。何してるの?」


 マクスが難儀して一体目のスケルトンをようやく倒した時点で、アリサの周囲には十体以上のスケルトンの残骸が転がっていた。


「いえですね。以前私の故郷に来た修道女の方がスケルトンの倒し方を教えてくれたんです、よっ!!」


 アリサは腰に着けていた二本の草刈ガマを両手に持ったかと思うと、それをショーテルの様に投げた。

 マクスめがけて。

 避けれなかった。というか、避ける必要がなかった。

 二本の草刈ガマはマクスの背後から錆びついた剣で彼に切りかかろうとしていたスケルトンに正確に命中する。

 頭蓋骨を砕くには威力が足りない。だが、剣を持った右手の関節を破壊するには放り投げた草刈ガマで充分だったようだ。

 間髪入れずにアリサは跳躍。マクスの頭を踏みつけ、さらに手にしたクワを剣を持つ関節を砕かれた骸骨剣士に叩きつける。


「お、俺を踏み台にしたっ?!!」


 二体のスケルトンはクワの刃の部分と持ち手の部分で叩かれ、二体同時に倒れた。


「マクスさん!油断しないで!!」

「あ、ああ・・・」


 気を取り直し、再びスケルトン相手に剣を振るう。

 振るう。盾で防がれる。隙をもう一度。マクスは二体目のスケルトンを倒した。

 振り向くとアリサがクワ一回転させている。

 周囲にいたスケルトン全部が頭を砕かれ、その場に崩れ落ちた。


「マクスさん。他にもスケルトンがいるかもしれません。すみませんがちょっと外の様子を見てきていただけませんか?」

「そ、そうだな・・・」


 アリサに言われ、マクスは廃教会の外へと出た。

 教会のすぐ隣の荒れた墓地には、百三十八個の穴が空いていた。

 おそらくスケルトン達はそこから這い出たのだろう。

 ぐるりと教会の周りを一周。

 風と共に揺れる枝葉の他には、百三十八個の墓石のみ。動くものは何もない。

 やがて、夜が明けた。

 廃教会を囲むように、入り口の戸や、窓から侵入しようとしたスケルトンの死骸、というか最初から死んでいる彼らの名残があった。

 すべて頭蓋骨を砕かれ、その活動を停止している。

 最初の十体くらいまでは倒した数を数えていた。が、アリサがその十倍くらいの勢いでスケルトンを倒しているのを見て、やがて、マクスは数えるのを辞めた。

 朝日に照らされると、骸骨剣士達の骨格は、数百年、数千年間風雨に晒されたかのように急速に風化し、ボロボロになって土に還って逝く。

 残るは嫌になるくらい爽やかな夜明けの光と、森の木々の間から聞こえる小鳥達の囀りと、教会として役目を終えた単なる木造建築のみだ。

 左側のドアが朽ち果て、右側のみ原型を留めた正面入り口からマクスは内部に戻っていく。


「マクスさーん。遅かったですねー。朝ごはん出来てますよー」

「ああ・・・」


 マクスはひどく疲れている。きっと百体を超すスケルトンの群れと戦ったせいだろう。そうに違いない。

 マクスが倒し損ねたスケルトンはちゃんといたようだ。

 アリサは干し肉と名前のわからない野草を鍋にぶち込み簡単なスープを造っている。

 その背後に、天井からぶら下がる全身骨格。

 上歯と下歯の間にクワを差し込まれ、そのまま廃教会の天井にシャンデリアよろしくぶらさげられた骸骨剣士は剣と盾を持ったまま動かなくなっていた。


______________________________________


 人は誰しもいつかは必ず死ぬ。

 人間だけではない。空を飛ぶ鳥も、地を這う獣も、海を泳ぐ魚も生きとし生ける存在は皆、いつかは死なねばならない。

 いや。神ですら死ぬことがある。南米には白人たちによって滅ぼされ、崇める者のいなくなったインカ帝国の神々の神殿が巨大な墓標となって密林や山脈の中に佇んでいる。

 冒険者と言うのは古代の神秘を求めるという大義名分の下、あるいは莫大な財宝を探すため、永遠の眠りについた者達の墓を荒らし、彼らの安息を妨げるのだ。

 その結果多大な災厄が持たされることもあるし、その終息を図るためにあえて死者の亡霊が彷徨う墳墓に足を踏み入れる危険を冒せばならぬこともある。

 ファンタジー世界では現実世界同様、信仰する宗教の建物(だいたいキリスト教がモチーフである)の周囲にある墓に共同墓地があり、死者はそこに葬られることが多い。

 旅の途中、あるいは戦死者は道端や戦場の片隅に掘られた穴に葬儀も行われずに埋葬され、本人が直前まで使用していた剣なり魔法の杖なりが墓標代わりにその場に突き立てられる。葬儀はそれで終わりだ。戒名もお供え物もない。

 これはまだマシな方であり、最悪なのはパーティ揃って全滅した場合であろう。その場で獣なり魔物なり蟲に喰われ、後は野ざらしの白骨死体が放置されるだけなのだ。

 このような状況ならば死者の亡霊が新たな仲間を増やそうとゾンビなりスケルトンなりとして歩き回るのもごく自然な成り行きとも言える。

 成仏できなかった死者たちを大地に帰し、生者に対する脅威を取り除いていくのが冒険者の使命なのであろう。

 この世に生ある者がある限り。そして、彼らを脅かすかつて生者だった亡者が存在し続ける限り。

 ところで、数十年、あるいは数億年先になるかはどうかは不明ではあるが、何らかの天災か人間同士のくだらない戦争で人類という種族が一人残らずこの世界からいなくなればこの地球という惑星そのものが人間にとっての巨大な墓標となる。

 個人的にはその日が出来る限り遠い日に成ればよいと思う。

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