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鉱山

 盲目の司書はエリナ女王に書類の束を手渡した。


「聖堂教会から寄付の依頼。年貢減免の直訴状。水害で壊れた橋の修理の嘆願書。兵器開発部より新たな兵器の開発プランの提示と追加予算の検討。ああ、これは最優先ね。ドック船?大型クレーンを保有し破損した船舶を水上で修復作業をおこなう・・・馬鹿馬鹿しい。却下」


 そんな書類の山を整理していた女王の手がピタリと止まる。


「チュニス鉱山から王国の財務編成するには金の採掘量を増やせねばならないと。そのためには鉱夫増員のため入山許可証を発行申請を・・・」


 女王は書類の中から幾つかを抜き出し、見比べ、そして盲目の司書にこう言った。


「金山の採掘量を二割、いいえ。四割減らします」


「承知いたしました。ではそのように・・・はっ?」


 今、自分の主はなんといったのだろう?確か財務が危機であるから金山の採掘量を減らせと言ったような気がする。


「少し出かけてきます。留守を頼みます」


 その日。金山役人であるハーミドの邸宅は10万人の農民、漁民、貧民に取り囲まれていた。男もいれば、女もいる。老人もいれば、子供いる。

 けが人や病人すら荷車に乗せられ運ばれてきているではないか。


「こんなところにオラ達を集めて、一体女王様はオラ達に何をさせるつもりなんだべか?」


「噂では金山の掘る人足が足りねぇって話だども」


「だどもオラッチは単なる農民だで。できることといえば、種まき、畑の耕し、収穫作業くらいなもんだで」


「土いじりならまだ関係あるさ。こちとら漁民だぜ。釣り、投網、船の操縦。こんな『能力』でどうしよってんだ?」


「こら、お前たち何をごちゃごちゃ話をしているか」


 その10万人の村人たちを連れてきたのは、一万人の見習い兵たちだ。


「兵隊さん。あんた達は何か理由聞いてないのかい?」


「我々は単なる見習い兵だ。正式の兵士にすらなっていらん。この命令書に記載されたとおりに女王陛下のご命令を実行するのみである」


「そうだ。我々は基礎訓練しかしていない。無能者なのだ。なんの技能も、能力もないのだ。だから言われたとおりに行動するのみなのだ」


 さらに、1000人の奇妙な集団が連れてこられた。

 彼らは皆いい歳こいて仕事もなく、結婚もしておらず、あるいは太っていて、眼鏡をかけている者が多かった。


「へ、兵隊さん。僕おトイレにいきたいなぁ」


 といいつつ、水筒の水を飲むのをやめない。


「よく来たな。よし、お前たち。ハーミド様の邸宅でトイレを借りてくるがいい」


「んほっ?!本当にいいのかおっ!」


「命令書にそう書いてある。これより開門する」


「い、いちばんのりぃいいいいいいいいい」


「わ、吾輩も逝くで御座る!」


「拙者も!拙者も!」


 1000人の街で人気の女優の絵姿を刷り込んだ着物を着た若者や、両手に荷物のぎゅうぎゅうに詰まった手提げ袋を持った集団が一斉にハーミド邸に雪崩れ込んでいく。


「ひいいいいい!な、なんだ貴様らは!!」

「お、おさないでください!おさないでくさい!」

「廊下は走らないでください!大変危険でございます!!」

「ハーミド様お抱えの踊り子をローアングルから眺めないでください!踊り子の周囲1メートルには近づかないようにお願いたします!!」


 騒ぎを聞きつけ、寝室から主のハーミドが出てきた。


「何者だ?ここをチュニス金山を支配するハーミド様の屋敷と知っての狼藉かっ?」


「ぼ、僕たちはおトイレを借りに来ただけあんだな」


「ふん。狼藉物が。私には相手の『能力を奪う能力』という、世界最強の能力があるのだ。その威力、貴様らの命を持って思い知れ!!」


 ハーミドが街で人気の美人歌手の絵姿が描かれた紙筒を光り輝く聖剣のように背中の背負い鞄に刺した若者の一人に両手をかざす。その次の瞬間、彼は股間を押さえ、うずくまる。


「うっ!変な能力を奪ってしまった・・・」


 廊下に倒れこむハーミドを無視し、しっかり踊り子は凝視し、流れ出る汗を拭きながら千人の異形な、でも間違えなくなく人間である集団はトイレを求めて走り続ける。


「さートイレトイレ。あ、トイレがあったぞ!」

「わー凄い!トイレがいっぱいだ!」


 ハーミドの屋敷には、ずらりとトイレが20個ほど並んでいた。まるで定期的にイベントが行われる会場のようだ。


「や、やめろっ!そのトイレに近づくんじゃあ、ないっ!!」


 ハーミドは股を押さえながら便座に座ろうとしたかなり太めの青年を制止した。若者が用を足すべく腰を降ろすと、次の瞬間便器のある床が崩れ去った。


「あいててて、なんだこれぇ?」


 青年は排泄物まみれに、ならなかった。代わりに肥溜めの中には皮袋が大量にあった。

 袋を開けてみる。中にはピカピカ光る金貨がぎっちり。


「あれー。なんでトイレの中に金貨があるんだろう?」


「そうか!このトイレは全部偽物。金山役人の隠し金庫だったんだ!トイレでうんこをするふりをして金貨をいれた袋を捨てる。それを後で汲み取り業者に回収させていたんだよ!」


『な、なんだってー!!』


 見習い兵が来て、言った。


「それは汚い金貨である。おもてにいる、農民、漁民、貧民、病人たちで分け合えとの女王の命である」


 決定的な証拠が発見されたことにより、ハーミドは違法採掘と蓄財の罪で捕えられた。


「お前はとても金貨が好きなようだ。だからお前を金貨にしてやろう」


 エリナ女王は金鉱石を溶かす溶鉱炉の前でハーミドにそう告げる。


「女王陛下。お尋ねしてもよろしいかな?」


「なんなりと」


 手にした鉄扇を弄びながら答える。


「なぜ私が金山から金を余分に採掘し、財を蓄えているとわかったのです?」


「わたくしにはエコノミーというの名の龍を操る術を心得ているのです。世界を滅ぼす魔術をもってしても滅びない、最強の龍を、ね」


「ならば、その龍の力。このハーミドが戴く!」


 ハーミドは手錠をかけられた両手をエリナ女王に伸ばした。が。


「馬鹿な。なぜ龍を操る力が宿らない!?」


「貴男は大きな勘違いをしてましてよ」


 エリナ女王が軽く小突くと、ハーミドは驚愕の表情のまま溶けた金の中に落下し、沈んでいった。


「だって、経済エコノミーという名の龍は、使い方知らないと意味がない『能力』なんですもの」


 女王は鉄扇で自分の頭を優しくたたいた。


_____________________________________


 鉱山とは金属などの有用な地下鉱石を採掘する施設の事である。鉱脈から鉱石を採掘し、製錬する。地金インゴット状にして輸送したり販売することも多い。

 大勢の労働者がいるので、作業場の周囲に彼らの為の宿泊、娯楽施設ができ、やがて鉱山都市ができあがる。

 鉱山というのは冒険の舞台とし大変魅力的な場所で、鉱石を求めて地下へと掘り進むうちに自然と迷路状の空間になっている。

 落盤事故で作業員が閉じ込められることもあるし、地下水が溢れ出すこともある。

 炭鉱なら爆発事故だってある。技術レベルにもよるが、トロッコなどを利用して鉱石を運び出している鉱山もあるだろう。

 鉱石を掘りつくして閉山された廃鉱が魔物の住処になることもあるし、ひたすら金銀宝石を求めて地下を掘り進んでいたら間違って凶悪な怪物を掘り起こしてしまった、ということもある。

 鉱山で強制労働させられている奴隷を主人公が救出しに行くというのもありうる。

 どの場合にせよ、鉱山にいくのならツルハシで岩を削って物語を”堀り進む”事が必要なのだろう。


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