照明器具
太陽が『東』に沈み、円環の月が『西』から登ったころ。
アミーラは文庫本を十冊ほど重ねたくらいの大きさの長方形の箱の中にマッチを放り込んだ。
「これはカンテラという道具でな。まぁこのような便利な道具は貴様の故郷のニホンなどという田舎国家にはないであろうが」
「それも魔法の道具なのかい?」
「カンテラの燃料はロウソクか、普通に油だぞ。まったく。そんな事も知らぬとは、やはりニホン人は三等民族だな」
作治にそう説明しながらアミーラは左手でカンテラを持ち上げる。
「それ、明りをつける道具でしょ?一向に明るくならないんだけど」
「ふむ。それなのだがな。このカンテラはシャッターがついた逸品でな」
アミーラは空いている方の右手でカンテラの側面に手をかけた。金属製の窓がスライドし、内部から光が漏れ出る。
「へぇ、よくできているね!」
「それで、お主に話があるのだが」
「なんだい。改まって?」
「サク。お主昼間冒険者の遺体を回収したことを覚えておるか?」
覚えておるも何も荷車に乗っている間その白骨死体とずっと一緒だった。
「あの死体がどうかしたのかい?」
「ちと考えてみたのだが、この道。イスカンドリアの街と北の修道院の通り道なわけだな」
「まぁそうだね」
「となると確実に人、あるいは荷馬車が通るわけであるな」
「当然だろ」
「にも関わらず、今まで妾達が回収するまで、なぜ。あそこに冒険者達の遺体が転がっていたのかということだ」
「確かに。その前に他の誰かが見つけて、警察、じゃなくて街の兵達さんに教えそうなもんだけどなあ」
「それなのだ。冒険者の遺体の回収と、警備隊への報告は任意で、決して国民に課せられた義務ではないのだ」
「どういうこと?」
「つまり、ここを貴族のお嬢様が乗った豪華な馬車が通ったとする」
「うん」
「死体を見つけたとして、乗せると思うか?」
「乗せないな。無視して走り去るね」
「大勢の客を乗せた乗合馬車が通貨する。遺体があったとして、乗せると思うか?」
「反対するお客するがいると思うけどなあ」
「街に野菜や麦を売りに行く農民がいたとする。大切な商品を積んだ馬車に死体を乗せて街の市場に入ったらどうなる?」
「死体交じりの食べ物なんて、誰も買わないよ!」
「と、いうわけだ。様々な『発見したけど、馬車には乗せたくなかった』人々によって、ニホンから冒険者達は白骨死体になるまで放置されたのだ。妾達がくるまでな」
「なんてこった」
遠く日本から離れた異郷の地で、白骨死体になるまで放置された祖国の同胞たちに、作治は同情の念を寄せざる負えなかった。
だが、その祖国の同胞を弔うと言い出してくれたアミーラの優しさのような物には、作治は気づくことなかったのである。
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ファンジー世界で活躍する冒険者達は地下迷宮や洞窟の探索、夜の行軍をすることもあるだろう。
人間は暗闇の中で物を見通す力を持っていない。
そのために暗闇を照らす松明やランプなどの照明器具が必要となってくる。
なに?「ぼくのかんがえたさいきょうのしゅじんこう」は夜になると全身がチェレンコフ反応で発光するからそんなものは不要だって?
まぁ世の中にはそういう魔法学科の生徒様もいるだろうが、ごく一般的な冒険者は道具店で照明器具を買うものなんだよ。
たいまつとは単なる棒切れではなく、松脂と油を練り混ぜた燃料を浸み込ませた布を巻きつけたもので、長時間燃えるようにできている。
たいまつは燃える炎がそのまま明りとなっているため、照明以外の目的。即ち火属性の武器として使える。そのまま敵を殴りつけてもいいし、油と併用して火炎攻撃を行ってもいい。
ランプはガラス製の窓がついた手提げ式の物で、燃料のオイルを追加することで半永久的に使用できる。
持ち運びに便利ではあるが、落としたり叩いたりしたら壊れてしまう。
ただ、ガラスが風防の役目を果たすため雨風が多少強くても中の火が消えることはない。
この点は松明より優っていると言える。
街の警備兵が使うことはあっても、冒険者が使うことはあまりないのではないのだろうか。
警備兵と言えば、警備兵に絶対に捕まらなかった男がいる。アッバース朝ムタッキー王の治世のの頃、ハムディーという大泥棒だ。夜間に提灯やカンテラをつけ、民家に次々と押し入り盗みを働いたという。
なに?明りを持ちながら泥棒をしてたらすぐに捕まらないかって?
ハムディーは時のバクダートの警視総監シールザードに金貨二万五千ディナールを毎日渡すことを条件に盗みを許可されていたという。
なんという凄いチートなんだ。その発想はなかった。




