クリスマスSS Ⅱ 『The name of family』
桐村智稀×元皇太子陽仁の場合
「ねえ、今日は何の日か知ってる?」
『2065年事変』から幾年経ち、皇族の身分を離れ、『一人の人間』になってもなお、桐村は『教育係』としての振る舞いが抜けずにいた。
「12月25日。クリスマスですね。西洋キリスト教圏では、イエス・キリストの生誕日として有名ですが……、それが何か」
事務的に答える桐村。すると、陽仁は何か不満そうな顔をしていた。
「陽仁様、以下がなさいましたか」
「ううん。確かに、今日はそういう日だけど、『家族』と過ごす日でもあるんだよ」
「家族、ですか」
「そう、家族」
前述の通り、『2065年事変』によって、彼らふたりは公式には『死亡』したことになっている。今は誰も知らない僻地で慎ましく生活しているが、これを機に『家族』になってみたいとさえ、思っている陽仁なのだ。
「だから、今日僕達は家族として過ごす。いい?」
「それは、命令ですか」
彼の言う『家族』という言葉は、桐村の思考に強く引っかかった。
「ううん……、そうじゃなくて、その……」
幼少期から、両親の実験台にされ続けてきた彼だが、保護したのは、陽仁の母親、つまり当時の皇太后章子殿下である。それをきっかけに、桐村は過去から脱却し、中央情報局第一級局員として暗躍、陽仁の教育係としての人生を歩んできたのだが、彼の中には一切『家族』などという概念は存在しなかった。そして、陽仁は彼を『一人の人間』『家族』として慈しんでくれていたことを、今一度知ったのだ。
「……って、智稀。そんなところに立ってないで、座ろう。疲れたでしょ」
「い、いえ、そんな」
「いいから!」
今日は家族の日なんだから! と、桐村をじっと睨み、半ば強引に向かいの椅子に座らせる。
――陽仁様は、こんなにも笑うんだな――
「智稀?」
顔をだらしなく緩ませていた顔が、更に赤く色づいていく。
「い、いえ……」
「でも、良かった。智稀もそんな顔するんだなって。普段全然笑ってくれないから」
微笑んだと思えば、今度はしょげた顔を見せる。
「それじゃあ、僕のことを『陽仁』って呼んでみてよ」
「え?」
いきなり何を言い出すんだと思ったものの、今日は『家族』になる日だと思い直す。
「は、陽仁……」
ごくごく微かな音量だったが、陽仁にはきちんと伝わっていたみたいだ。
「うん。もっと呼んで」
「陽仁……!」
そんなに自分の名前を呼ばれて嬉しいものかと一瞬思いあぐねたが、すぐにどうでもよく思えてしまえた。
自分の呼ぶ声で、仕える主人――今では『家族』が喜んでくれるなら、いくらでも呼んで差し上げよう。
そして、口調も。
「陽仁、今日はいわゆる『タメ語』というものを使っていいでしょうか」
主従関係からすれば御法度だが、陽仁は考える隙もなく了承した。
「勿論。何度も言っているように、今日は『家族』なんだから」
「はい……ああ。陽仁がそういうなら」
「だけど、今日だけじゃなく、今日からずっと、僕達は『家族』だ」
「陽仁……」
『家族』になった聖夜。二人は今までになく甘く、優しく柔らかな口づけを交わすのだった。
おわり




