「落城と長女の自害」
金川城が、死んだ。
突如として夜気を切り裂いたのは、宇喜多の兵たちが上げる勝利の鬨であった。
だが、それは祝祭の叫びではなく、地獄の蓋が開いたような獣の咆哮に聞こえた。
私は陣幕の中で、その音を聴いていた。
やがてその騒音も、遠のいていく。
山裾に広がる戦場から熱気が失われ、代わりに立ち込めたのは、言語化しがたい静寂だった。
松明の火が消され、闇が急速に陣内を侵食していく。
天幕の外、どこかで秀安が石壁を殴りつける鈍い音が止まない。
沼城の夜を越え、すでに感情を殺す術を学んだはずの彼でさえ、直家が積み上げたこの冷酷な理屈の行き着く先を、完全には消化しきれていないのだ。
だが、この陣営の主である直家は、椅子に座ったまま微動だにしない。
「……報告いたします」
重い足取りで入ってきた使者の声が、震えていた。
「……金川城、落城。松田元賢、討死。……そして、直家様のご長女様は、城門が破られる直前、自害なさいました」
沈黙。
それは息を呑むような間ではなく、空間そのものが凍りついたような静けさだった。
私は直家の横顔を見つめた。
眉一つ動かしていない。
眼差しは、消えかかった燭台の火を見つめたまま、揺らぎ一つ見せない。
己の血を分け、この世に繋いだ娘が、夫と共に死を選んだというのに、その瞳には慈しみも、悔恨も、ましてや怒りなどという人間らしい情動の残滓すら見当たらない。
ただ、黒い深淵があるだけだ。
この男にとって、「親」という属性は、とっくの昔に去勢されているのだ。
家門という巨大な生存装置を回すために、自分の内側にある最も柔らかな部分を、最初に取り除いたに違いない。
「ご下知を……」
使者が再び声を絞り出す。
直家はゆっくりと立ち上がった。
その所作は、まるで壊れた人形を組み立て直すようにぎこちなく、しかし完璧な無機質さを湛えていた。
「……引き上げろ」
直家の口から漏れたのは、それだけだった。
落城の報告への反応ではない。ただの事務的な処理。
外では、秀安がまだ壁を殴り続けている。
だが、私は違う。
私は知っている。
直家が娘の死という最悪の結果を、毛利介入を阻止するための「避けられぬ犠牲」として、最初から算盤の珠を弾き、その掌の上で転がしていたことを。
私は燭台に手をかけ、火を消した。
真っ暗闇が、二人を包み込む。
陣幕の隙間から、わずかに外の景色が見えた。
遠くの山裾、戦火とは無縁の農民の小屋から、細い夕餉の煙が、まるで何事もなかったかのように夜空へ向かって真っ直ぐに上っている。
この非情な世界で、私だけが知っている。
この闇の中で、私たちはすでに、戻れない場所へ足を踏み入れているのだと。
私は直家の背中を見つめた。
そこには、地獄の入り口が確かに開いていた。
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