「秀安による中山・島村の誅殺」
畳の上に、朱と黒が混じり合う。
塗り替えられたのは、宴の景色だけではない。
この場の空気に満ちていた祝祭の香りは、たちまち鉄錆のような血の匂いと、ぶちまけられた酒の酸っぱい悪臭へと塗り替えられていった。
秀安の太刀が、空を切り、肉を断つ。
ぐじゅり、という湿った音が広間に響く。それは、人の命が切り離される、あまりにも鈍く、重い感触だった。
返り血を浴びた秀安の顔は、先ほどまでの「凍りついた能面」から一転し、苦悶に歪みきっている。
彼はまるで機械仕掛けの傀儡のように、島村盛実へと太刀を振り下ろし続けていた。
抵抗らしい抵抗もできないまま、島村は畳の上をのたうち回る。
宇喜多の伏兵たちが畳を血に染めながら、阿鼻叫喚の渦を巻き起こしている。
その光景の只中で、直家だけが、まるで他人事のようにその場に立っていた。
彼は瞬き一つしない。
視線の先にあるのは、かつての盟友であり、今はただの「処理すべき障害」と化した島村の末路。
直家の眼差しには、慈悲もなければ、勝利の昂揚もない。
そこにあるのは、算盤の珠を弾き終えた職人が抱く、ただの「確認」の冷ややかさだけだ。
その血の海の中で、お菊は朦朧とする意識を繋いでいた。
動かなくなった父の中山、そして今まさに屠られようとしている島村の姿を、彼女は視界の端で捉えている。
身体の自由は利かない。だが、喉の奥から絞り出されるのは、絶望の叫びだけだった。
「あ……あぁ……っ!」
お菊の喉から、言語にならない絶叫が絞り出された。
それは、愛した夫に裏切られ、父を失い、自らも死にゆく娘の、魂を引き裂くような断末魔の調べだった。
私は、その光景を直家の影から見つめていた。
私の鼻腔には、畳に吸い込まれていく血の熱い湿気と、死臭が濃厚にまとわりついている。
この地獄を作り出したのは直家だ。だが、その手には一滴の血も付いていない。
彼は、秀安という「道具」を使い、最も美しく、最も残酷な形で、この地の厄介者を一掃したのだ。
秀安が、血で濡れた太刀を握りしめたまま、お菊を見て硬直する。
彼の手は震えていた。もはや、正義の若武者の面影はない。
彼は自分の両手を汚し、地獄の業火を一身に背負った「人殺し」の顔をしていた。
広間の外。
縁側に生える冬枯れの萩の枝が、冷たい夜風に吹かれて、カサカサと乾いた音を立てている。
その音だけが、この惨劇の中にあって、あまりにも冷淡に世界を繋いでいた。
宴は終わり、地獄の業火が、私たちの足元を焼き尽くそうとしていた。
私は知っている。直家の「生存の理」は、まだここで終わるはずがないことを。
この血の海の上に、さらに残酷な結末が、静かに幕を開けようとしている。
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