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生存の演算  作者: 端野ゼロ


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13/24

「血の合図、伏兵の突入」

直家の指先が畳を叩いた音は、わずか二打。

しかし、その響きは広間の静寂を粉々に砕く合図となった。


直家は、持っていた杯を床へと落とした。

カラン、と。

硬質な磁器が畳の上で跳ね、酒を飛沫のように撒き散らして転がる。


宴の騒音は、その刹那、別世界のものへと変質した。


直家の口から、低く、重苦しい声が放たれる。


「……やれ」


それは慈悲なき死の宣告だった。


その言葉を待っていたかのように、広間の障子が、爆ぜるような音を立てて外側から突き破られた。

障子の木枠が折れ、紙が舞い散る中、踏み込んできたのは秀安だった。


その顔は、あの日の夜の絶望を塗りつぶしたかのように、凍りついた能面のような表情で固定されている。

彼が握る太刀は、すでに鞘から抜かれ、月光を反射して青白く光っていた。


「なっ……! 宇喜多、何事だ!」


中山信正が、血相を変えて立ち上がる。

手にしていたはずの杯を落とし、彼は酔いから覚めたばかりの混乱した眼差しで周囲を見回した。


だが、事態を理解する時間など、彼には与えられていない。


障子を破った伏兵たちが、雪崩のように室内に侵入し、宴の膳をなぎ倒していく。

鮮やかな料理が畳に散乱し、酒の香りが血の匂いに塗り替えられていく。


お菊が悲鳴を上げ、呆然と立ち尽くす父・中山の背後に駆け寄った。


「父上、いけませぬ!」


お菊は、父を庇うようにその身を差し出した。

その無垢な献身が、悲劇を決定的なものにする。


秀安の太刀が、空を切り裂く。

彼が狙ったのは、中山の首。だが、お菊がその前に飛び出したことで、太刀筋は迷いなく振り下ろされた。


鈍い、肉を断つ音。


私の鼓動が、恐怖で止まりそうになる。

中山は娘を抱きかかえ、血の海と化した畳の上へと崩れ落ちた。


広間の外では、それまで月明かりを享受していた空に、厚く黒い雲が忍び寄っている。

夜空が完全に塗り潰され、沼城は漆黒の闇に沈み込もうとしていた。


宴は終わりを告げ、地獄が幕を開けた。



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