第五話 魔法が効かない竜の倒し方
第五話!
楽しんで!
資料室の壁に開いた風穴。その向こう側から、空気を震わせる重低音の唸り声が響いた。
瓦礫を砕き、地下の闇から姿を現したのは、鋼鉄のゴーレムなど比較にならない圧倒的な威圧感――『深淵の古竜』だった。
その鱗は鏡のように磨き上げられ、あらゆる魔法を跳ね返す「反射皮膚」を持っている。かつて数千の魔導師を焼き尽くしたという、学園最深部の裏ボスだ。
「……っ、ロゴス! さっきの『火の魔法』を撃って!」
『心得た!』
ロゴスが口を開き、先ほど資料室を半壊させた極大の火炎弾を放つ。
しかし、それが竜の美しい鱗に触れた瞬間――カラン、と乾いた音が響いた。
「え……?」
放たれた業火は、鏡に反射した光のように、そのままの勢いで私たちへと向きを変えた。
しかも、竜の魔力で「必中」の呪いをかけられたかのように、まっすぐ、ゆっくりと、確実に私たちを焼き尽くさんと迫ってくる。
『なっ……!? 小娘、あ奴の鱗、魔法をそのまま「鏡写し」にしおったぞ!』
あまりの熱量に、逃げ場を失う。このままでは自分の魔法で蒸発してしまう。
「ロゴス、あれの魔力を吸って! 全部!」
『無理だ! 出力がデタラメすぎて、一瞬で吸い切れる量ではないわ!』
火玉が眼前に迫る。ロゴスは焦り、意を決してその巨大な熱源に体当たり気味に手を伸ばした。
『――あっちぃッ!!』
ロゴスが「あちちっ!」と空中で飛び跳ねながら、火玉の表面から「魔力をたった『1』だけ」強引に引き抜いた。あまりの熱さに涙目になりながらも、ロゴスが引き抜いたその「1」の魔力が、完璧だった火炎弾の構造にわずかな「綻び」を作る。
「今だ……! おじいちゃんの本に書いてあった、一番弱い、でも一番硬い盾!」
私はロゴスが作った「綻び」の一点を見据え、魔力ゼロの指先を突き出した。
「『初級防壁』ッ!!」
パリン、と小さな音が響く。
本来なら一瞬で溶けるはずの貧弱な盾。けれど、ロゴスが熱がりながらも構造を乱し、私が「綻び」に一点集中で叩き込んだその盾は、巨大な火炎弾を真っ二つに割る「楔」となった。
ゴォォォォッ! と熱風が私たちの左右を通り過ぎ、背後の岩壁を溶かす。 静寂。
煤で顔を真っ黒にした私は、膝をついて激しく息を吐いた。
『……ふぅ、死ぬかと思ったぞ。毛が焦げるところだった……あちち……』
ロゴスがまだ熱そうに前足をフリフリしている。
目の前では、自分の魔法を割られたことに驚愕し、古竜が初めて動きを止めていた。
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