第四話 二人で編み出す「最初の魔法」
第四話!
楽しんで!
大騒動の翌日。私は学園の地下、ネズミ一匹通らないような埃っぽい旧資料室に逃げ込んでいた。
ロゴスは相変わらず、私の隣でぷかぷかと浮きながら、昨日の「食事(奪った魔力)」を消化しているのか、時折幸せそうに「メェ」と鳴いている。
「ねえ、ロゴス。あんた『魔力の塊』なんて威張ってるくせに、本当に今は浮くことしかできないの?」
私が溜息混じりに問いかけると、ロゴスは空中を一回転して不満げに鼻を鳴らした。
『致し方あるまい。我は永い封印の間に、魔法を構築するための「式」を失ったのだ。燃料(魔力)は満タンだが、エンジンの構造を忘れた車のようなものよ。……だが、小娘』
ロゴスは金色の目を細めて、私が机に広げた「あのボロボロの古本」を覗き込んだ。
『お前が読み込んでいたその本。そこにはかつての我の一部……魔法の「設計図」が記されている。……エルナよ。お前がその知識を使い、我の中に直接「魔法の回路」を組み立ててみろ』
「え……私が、ロゴスに教えるの?」
魔力ゼロの私と、魔力はあるけど使い道を知らないロゴス。
普通、魔法は自分の体内の魔力を練って放つもの。けれど、私たちがやろうとしているのは、外側から巨大なエネルギー体に干渉し、無理やり形を整えるという、魔法界の常識を無視した「外部操作」だった。
「……やってみる。まずは、一番基礎の『点火』から」
私は古本を指でなぞり、そこに記された複雑な幾何学模様を頭に叩き込む。 おじいちゃんの家で何度も見てきた図形。当時は「綺麗な絵だな」としか思っていなかったけれど、今ならわかる。これは、熱を生み出すための精密な命令系統だ。
「ロゴス、じっとしてて。……今から、あんたの体から漏れてる魔力の糸を捕まえるから」
『くすぐったい真似をするなよ』
私は魔力を持たない。だからこそ、ロゴスが放つ高密度の魔力を「エネルギー」としてではなく、ただの「動く糸」として冷静に見ることができた。
私は空中に指を走らせ、ロゴスの周囲で暴れる光の粒子を、パズルのピースを嵌めるように組み替えていく。
「そこ、右に捻って……。違う、その魔力の流れは、円を描かずに直線で通して! じゃないと、あんたの体の中で爆発しちゃう!」
『ぬ、ぬう……! 意外と注文が細かいな! こうか!?』
「そう! そのまま維持して、熱を一点に凝縮……。いい? 想像するのは、針の先みたいな小さな火花だよ。……せーのッ!」
『――燃えろッ!!』
その瞬間。
シュボッという小さな音を期待していた私の視界は、一瞬で真っ白に染まった。
「……え?」
ロゴスの口から放たれたのは、小さな火花などではなかった。
資料室の壁をドロドロに溶かし、地下の岩盤までをも真っ赤に焼き払う、超高密度・超高温の極大熱線。
轟音。そして、一瞬にして資料室の気温がサウナのように跳ね上がる。
「ぎゃあああああああ! 出すぎ! 出すぎだってばぁ!!」
『なっ……!? 我ながら、これほどの出力が出るとは……!』
ロゴス自身も驚いてひっくり返り、空中でジタバタしている。 私は慌てて自分の上着を脱ぎ、真っ赤に熱を帯びた床を必死に叩いた。
「どういうこと!? 基礎の『点火』を教えたはずでしょ!?」
『……どうやら、お前の「設計図」が完璧すぎたようだな。それに我の魔力を流し込めば、たとえマッチを擦る程度のつもりでも、太陽を呼び出すような結果になる』
ボロボロの古本を抱え、熱風に髪をなびかせながら、私は戦慄した。
魔力ゼロの少女が「理論」を教え、魔力の塊が「出力」する。
それは、この国のどの賢者も到達していない、恐ろしくもデタラメな魔法の誕生だった。
「……これ、絶対に見つかったら退学どころじゃ済まないよね……」
『案ずるな小娘。今のはまだ、我らの「練習」の第一歩に過ぎん』
ロゴスは誇らしげに胸を張るが、その背景では資料室の壁に大きな風穴が開いていた。
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