第二話 この本、もしかしてやばいやつ?
第二話!
こっちのほうが『化学攻略』より書きやすいのかもなー。
まぁ、楽しんで!
人気のない渡り廊下の陰に飛び込み、私は荒い息をついた。
「はぁ、はぁ……びっくりした。あんなの、絶対に見せられるわけないじゃない……!」
じわじわと嫌な汗が背中を伝う。
今の今まで、私はこの本を「ちょっと変わった図解が多い、退屈しのぎの読み物」だと思っていた。あまりにボロボロだから、読んでいる最中にパンのカスが落ちれば表紙でパパッと払っていたし、机がガタつく時に脚の下に挟もうかとさえ思っていたのだ。
(これ、王宮が血眼になって探してる『原典』だったの……!?)
その時。小脇に抱えていた本が、生き物のように熱を帯び、ふわりと私の手から浮き上がった。
「えっ、ちょ、何……!?」
本が空中でパッと弾け、まばゆい光が収束していく。
現れたのは、手のひらに乗りそうなほど小さくて、もこもこした綿毛のような子羊だった。
それは翼があるわけでもないのに、当たり前のように私の目の前でぷかぷかと浮いている。
ただ、その小さな瞳だけは、底知れない知性に満ちた金色に輝いていた。
『――ふぁ~あ。ようやく目が覚めたわ。おい、小娘』
「ひっ、空飛ぶ羊が喋ったぁぁ!?」
『羊と言うな。我はロゴス。世界の真理を綴り、魔力の源流を束ねる叡智の結晶体よ』
ロゴスがぷるぷると小さな体を震わせるたびに、周囲の空気が重く、熱く歪んでいく。
魔力を持たない私にはその「重圧」は分からないが、肌をピリピリと刺す感覚だけで、この浮いている小さな塊がただ事ではないと悟った。
「ロゴス……。でも、魔力がない私には、あんたがどれほど凄いのか全然わからないや。あと、なんでそんなにちっちゃくて浮いてるの?」
『我は純粋な魔力の塊。普通、我に触れれば魔力持ちの人間なら精神が焼き切れる。だが、空っぽのお前だからこそ、我をこうして具現化させ、平然と連れ歩けるのだ。姿形など、お前の深層意識にある「無害で軽そうなもの」が反映されたに過ぎん』
ロゴスは空中でくるりと一回転し、不敵に笑った(ように見えた)。
『光栄に思え。お前は今、世界で最も濃密な魔力を連れて歩いているのだぞ』
「そんな光栄いらないよ! 早くただの古本に戻ってよ!」
廊下の向こうから、「こっちに逃げたぞ!」「無魔のエルナを探せ!」という追手たちの足音が聞こえてきた。
『おっと、追手のお出ましだ。どうする、小娘。この「浮いている羊とやら」を隠し通せるか?』
「もう……最悪だぁ……!!」
ご覧いただきありがとうございます。




