第一話 魔力なしの読書時間
第一話!
『科学攻略』と同時連載!
楽しんで!
王立魔導学園の第ニ演習場。
エリート生徒たちが華やかな魔法を放つ中、私はいつものように隅っこで一人、ボロボロの本をめくっていた。
私はエルナ。この学園で唯一、魔力を一切持たない「欠陥品」だ。
授業中、みんなが杖を振るう間、私はただ座っていることしかできない。だから私は、本を読む。
「……ふふ、やっぱりこの理論、面白いな」
私が夢中で読んでいたのは、表紙が剥がれかけ、題名すら読めないほど使い古された古い本。幼い頃、家の物置の隅で見つけ、その不思議な図解が気に入って以来、何度も読み返してきたお気に入りだ。
その時、演習場の中央がにわかに騒がしくなった。
「いいか、全員注目せよ! 今日は特別に、王宮図書館から貸し出された『伝説の魔導書』の写本を公開する!」
ボルツ先生の声に、生徒たちが色めき立つ。
先生が掲げたのは、金銀の装飾が施された、いかにも高級そうな羊皮紙の束。
「これは、魔力を持たぬ者には決して読み解けず、触れることすら許されないと言われる『極大魔法の深淵』を記した禁断の書だ。かつて一人の天才魔女が、世界の理を書き換えるために記したと言われているが……」
生徒たちが羨望の眼差しでその「写本」を見つめる。
けれど、私はふと顔を上げ、先生が掲げたその豪華な紙に描かれた「図形」を見て、首を傾げた。
(あれ……?)
その図形、見覚えがある。
私は、今まさに自分の膝の上で広げている本の、124ページ目を見開いた。
見比べると、全く同じだ。
いや、むしろ先生が持っているものの方には、致命的な「書き損じ」がある。
私はポツリと、誰に聞かせるでもなく呟いた。
「あ、この本読んだことあるや。」
隣にいたクラスメイトが、私の独り言を聞き逃さなかった。
「はあ? あんた、今なんて言ったの? これが読めるのは聖女様か賢者様くらいだって先生が……」
「え、だって……ほら」
私は、自分が今まで読んでいた「ボロボロの本」をひょいと持ち上げて見せた。
「これ、さっきから読んでた本と中身が一緒です。……というか、先生の持ってるやつ、最後の術式が一行足りないから、そのまま発動したら爆発しちゃいますよ?」
その瞬間、先生が実演のために魔力を込めた写本が、不気味に赤黒く光り始めた。術式の不備による魔力の暴走だ。
「な、なんだ!? 制御が効かん! 誰か、防壁を――!」
演習場がパニックに陥る中、私はため息をついて立ち上がった。
小脇に自分の本を抱え、トコトコと教壇へ歩いていく。
「エルナ、来るな! 死ぬぞ!」
先生の叫びを無視して、私は暴走してバチバチと火花を散らす写本に、ひょいと手を伸ばした。
魔力のない私には、魔力の暴走も、弾ける火花も、ただの「光る風」でしかない。
私は、写本の隅っこに書かれた一箇所の記号を、指先でグイッと強く擦り消した。
「……はい、止まった」
嘘のように、赤黒い光が消え、演習場に静寂が戻る。
腰を抜かしたボルツ先生が、震える指で私を指差した。
「い、今、何をした……? 呪文も、魔力も使わずに……」
「え? ただのインクの繋ぎ間違いですよ。ここを指で消せば、回路が途切れて止まるって、本に書いてありましたし。……魔力がないから、私にはこれくらいしか出来ませんけど」
静まり返る演習場。全員が、化け物を見るような目で私を見ている。
「お、お前……一体、何者だ……?」
私は本に付いた砂をパンパンと払いながら、少し困ったように微笑んで名乗った。
「あ、自己紹介が遅れました。エルナと言います。……ただの、本が好きなだけの落第生ですよ」
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