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彼等はとても慣れていました。観客の反応に素直に応えるのが得意のようです。彼だけではなく、全員が他人の心を読めているんじゃないかと思いました。
彼はいきなり抱えていたバンジョーで春に心地がいいピアノ曲を弾き始めました。
その音に観客からの声援が止みます。
彼の演奏に皆の音が徐々に重なっていきます。私もそこに合わせます。
アンコールに相応しいとは思えませんが、ゆったりとした気分が会場を満たします。
これ程までに落ち着いた表情の観客を見るのは初めてでした。初恋のようなうっとり感が漂いました。
演奏後に彼は、笑顔を一瞬浮かべてからバンジョーを下ろし、背後に立てかけられたままのエレキを肩からぶら下げました。
ゲームセットー!
拳を突き上げて彼がそう叫ぶと、それまでは座っていた観客が総立ちです。
その光景に目を丸くしたのは私だけでした。
彼はギターを掻き鳴らし、歌います。
立て続けの三曲で彼はようやく話をしました。今日はありがとう! 延長に突入してしまったけれど、これもまたロックナインだよな!
彼のその言葉は伝わらなかったようです。観客はポカンとしていました。けれど彼は全く気にせず続けます。
俺達もついにレコードデビューだ! まぁ、メジャーではないけれど、世界同時デヴューだから勘弁しろよな!
そこから彼は観客の反応もメンバーの反応もを無視してアカペラで歌い出しました。
彼はやっぱり狂っています。
私はその曲を知っていましたが、他のメンバーには伝えていない新曲でした。テープの中に最後の曲として録音されていました。
だから私は、タイミングを見計らって音を乗せました。
すると彼はチラッと私に顔を向け、笑顔で片目を瞑りました。
なんだか嬉しくなってしまい、その感情のままに演奏を楽しみました。




