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私は知っています。当時の人の心理は単純です。流行り歌に嫉妬をした一部の連中が過去を持ち出して対抗しただけの話です。残念な事に、その気持ちが分かってしまいます。今を表現出来るアーティストには嫉妬しか感じません。単純に悔しいんですよ。自分には出来ない事を平然とやってのけている姿を見るのは。
私も以前はそうでした。彼のような才能の塊を目にすれば、自分なんてモノマネが精一杯だと悲観します。
けれど私は、逃げたりは致しません。自分に出来る事は何かと考え、精一杯やっています。
譜面通りに弾かなくてはならないなら、そうすればいいだけです。かと言って、五線譜は完璧ではありませんから、いくらでも余地があります。私はそこを縫うように楽しんでいるだけなんですが、頭の固いクラシック愛好家には不愉快に聞こえてしまうそうです。
色々と文句は尽きませんが、これでも私は音大生です。しかも国立の、有名大学に受かっています。つまりは認めてくれている人は彼だけではないって事です。
音大の教授は変わり者が多いからかも知れませんが、私は一発合格です。成績も悪くはありません。けれど、そこまでなんです。オーケストラに参加すると必ず怪訝な顔をされてしまいます。その理由はきっと、彼が語ってくれるでしょう。私は少し、ズレているんです。
彼がどうして私なんかを誘ったのかは謎ですけれど、彼等との演奏は最高でした。
彼等が有名なのは知っていましたが、まさかの大舞台です。緊張する隙すらありませんでした。クラシックを齧っていれば憧れるサントリーホールでのコンサートには最初こそ疑問符がありましたが、音響は最高ですし、観客も大喜びでした。スタンディングで大暴れするのも乙ではありますが、座席に座って各々踊り狂うのもいいものです。クラシック音楽は元々そういう観客が多かったんです。お行儀良く座席に座ったままなんて、何処ぞの女王の側近レベルでの話です。
彼らがどういった経緯でそこに立ったのかは謎ですが、まさかの初ワンマンライヴだそうです。正式でないのは、その経緯が理由なようで、私は知らないままでいると決めました。
彼らは何の宣伝もしませんでした。出来なかったという方が正しいのですが、出来たとしてもしないのも事実です。
突然の誘いに驚いたのは私だけだったようです。彼らもその日の朝に知ったばかりだったようですが、驚きはいたしません。それが彼等の日常だからです。




