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 だったら私はなんなんですか? 現代を生きている私が演奏するんですから、私らしく表現するのが一番の筈です。作曲者ならきっと、演奏者の気持ちを優先する筈です。その上で自己主張をしているんです。譜面にはその主張が見え見えじゃないですか? 私はそれを踏まえているつもりなのですが、所詮はつもりって事でしょうか?

 正直に言うと、私はただ単純に音楽が好きなんです。譜面があってもなくてもどうでもいいんです。選んだ楽器の特性上、譜面がある方が弾き易いのですが、私はアドリブが得意なので問題ありません。音楽はやっぱり、即興性が大事なんです。その場の感情を音に乗せるのが醍醐味ですから。

 だからこそクラシックは奥が深いとも言えます。譜面通りに弾きながらの感情表現はなかなかに厄介なものです。

 自分の音楽に迷っていました。このまま音楽を続けるべきなのか? それとも普通に社会に役立つ仕事をするべきなのか? 運がいい事に楽団への就職は決まっていました。けれど、楽団なんてなくても世界は回ります。飲食とお金を産まない仕事は贅沢品でしかないのです。

 明日なんだけど、ここに来て演奏してくれないか? 一応これまでの楽曲はこの中に入ってるけれどさ、真剣に聞く必要はないよ。俺達のライヴは技術より感情だから

 そんな事を言われて聞いたその音は、感情だけでなく技術も凄かった。

 彼との面識はなかったけれど、彼の顔は知っていました。彼は有名人です。教育実習先の高校で、彼を知らない者はいません。生徒だけでなく、用務員を含めた全ての先生も知っている存在だって事は本物の有名人です。保護者の方々も大半が知っているようで、PTAの会長が彼を呼び止めてはしゃいでいる姿を見た事もあります。

 私がヴァイオリンを弾いている事は誰にも話していません。教育実習中には勿論、その後に街で出会った生徒が数名いるのですが、そんな話はしていません。ケースに入ったヴァイオリンを背負ってはいましたが、何も聞かれなかったのでスルーしていました。

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