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   お誕生会


 バンドを始めてから、俺の夜遊びは酷くなっている。練習をしていない時間はいつだって遊び相手を探しているんだ。

 だからといって悪い事は何もない。好きな事をしているだけだ。

 電車に乗れば十分程度で大きな駅に行ける。そこは夜も賑やかだ。表向きは酔っ払いばかりではあるが、いいお店が幾つも点在している。

 俺は一つ一つ自分の足で確認して行った。

 生演奏があればその形態はどうでも良い。

 ただ純粋に音を求めて歩いていた。

 メンバーを集める意図はない。この世界は全てが巡り合いだ。自然と集まった奴らと楽しめばいいだけだ。無理に探す必要はない。

 何処に行っても生演奏は最高でしかない。凄く楽しくて、凄く早く時間が過ぎていく。

 だがそれだけだよ。それ以上は味わえない。

 それだけでも十分なのかも知れない。それ以上を求めるのは我儘だ。

 だから俺は、そんな毎日を楽しむだけで満足しようとしていた訳だ。

 そうはならなかった俺は運がいい。

 小さなハコを見つけた。大きなビルの小さな空間。隣は喫茶店で、それ以外はよく分からないショールームやら事務所が並んでいた。地下は巨大な駐車場で、上はホテルとマンションだ。

 雰囲気的には最低だ。

 なんだか意味の分からない信用金庫のような表向きで、一見だけではライヴハウスにもバーにも見えない。完全に街に溶け込んでいる姿は褒めるに値するのかも。

 ガラス窓の中側に貼られていたチラシに興味をそそられた。

 雰囲気重視の絵柄と文字は、何を書いているのか分からない。ただ、日付と時間だけが分かりやすい文字に変えられている。ライヴの宣伝だって事はよく分かる。チケット代の数字まで読み辛くしているのはわざとなのか?

 それでも不思議と興味は湧いてくる。なんだか楽しい予感しかしなかった。

 多くのチラシの中には、有名どころの名前もちらほらと見かけられた。ピンクの背景にメンバー四人の顔がアップで写っているチラシは家にもある。個性的な女の子の顔が堪らなく可愛いんだよな。

 その日のライヴは正直言って楽しくなかった。学生が集まってただの思い出として演奏をしている。何の感情もない演奏には感情移入すら出来ない。

 音楽っていうのは、真剣でなくちゃつまらない。大抵の合唱コンクールがつまらないのはそのせいなんだよ。

 とは言っても、中には楽しい合唱コンクールもあるし、レベルの高い思い出作りだってある。演者が真剣であればそれも可能だよ。

 クラスの中に一人でも真剣な奴がいると、そのグループは感化される事が稀にある。そうなると楽しい合唱を見せてもくれるんだ。だがそうはならない事の方が多い。先生からのやらされ感だけで歌われても、誰の心にも届かない。

 バンドもそうだ。思い出作りにと盛り上がるのは一瞬で、ライヴ当日にはすでに冷めている。集まる観客も身内だけだし、緊張だけして何も残せず消えていく。バンドもその他と同じで、その時楽しめない奴は続かない。

 その日の出演バンドはそんな学生が四組演奏していた。チケット代は安いし、生音が聞けるんだから文句はない。

 それでも収穫はあった。

 俺が店に入った時、なかなか楽しい音楽が流れていた。誰の曲かは分からなくても、いい曲ってのは気分が上がる。

 いいセンスだよなって思っていたら、演者が選んでいる訳ではなかった。その店にはDJが在注している。専属って訳ではないようだが、暇だと毎日やって来てはタダ酒を飲みながらレコードを回している。まぁそれは店長の言い分であって、実際には正式な依頼を受けているそうだ。ギャラもキチンと貰っている。チキンじゃなくって現金でだとさ。

 自分達のSEを準備するバンドも多いが、そんな余裕がない連中も多い。俺達は前座歴が長かったから、習慣として身につくには時間がかかったよ。好きな曲をただ選べばいいってもんじゃないからな。次の演奏に繋げなくちゃならない。ただ単純にテンションが上がればOKでもないのが厄介なとこだよ。

 奴はその点お見事だった。思い出学生の曲目とリハにまでも顔を出して選んでいたそうだ。ピタリと盛り上がるSEの後に演奏が始まると、否が応でも盛り上がってしまう。

 まぁ、それは一瞬の出来事で、直後に撃沈するのがオチなんだけれどな。

 演者達の感情は別として、観客は退屈しなかった。奴は調子に乗って歌まで歌っていたけれど、気付いたのは俺だけだった。

 その歌もトラックも最高だから腹が立つ。

 二組目が終わったタイミングでDJブースに行き、話しかけた。

 その曲、凄いね! なんだか勝手に身体が動き出す! さっきかけてた曲ってさ、なんて曲! っていうかさ! 今日のリスト、全部教えてよ!

 騒音の中、俺は叫んでいた。

 通過電車の騒音は苦手だけれど、ライヴハウスのそれは心地いい。

 叫びながらの会話を楽しめる空間はここしかない。工事現場では楽しみ辛いし、サッカー場では会話以上に楽しむ事が多過ぎる。

 面白い奴だな!

 奴にそう言われた俺は、何故か物凄い喜びを感じてしまった。

 そして口を閉じ、学生の演奏に耳を傾けた。

 なんて俺も学生なんだけど、その日のステージは何かがおかしかった。学生を差別するつもりはない。俺も学生だし、思い出は大事だよ。この頭の中ではな。

 単純に真剣さが感じられなかった。お遊びでやるのは構わないが、心に響く演奏が一つもない。それは初ライヴだからの緊張感ではなく、そもそものモチベーションのせいだと思う。いやらしくもその後を追いかけてみたんだが、誰一人として音楽を続けてはいなかった。

 まぁ、そんな日もあるさ。四組全てってのは珍しいんだけどな。

 全ての演奏が終わってからも、奴は音を止めなかった。余韻を楽しむ為の音楽は、ある意味迷惑なんだよな。帰りたいっていう気分が削がれる。

 その日の観客はそもそもの目的が友達へのお付き合いだ。音楽になんて興味がない者の方が多かった。にも関わらず、すぐに帰ろうとしないのは明らかに奴のせいだよ。誰もが心地よい音楽に耳を傾けていた。

 その日から俺はそこに入り浸っている。今でも時間があれば顔を出す。俺達はまだ出演していないが、有名どころも一杯やって来る。ハズレの日もあるが、それもまたライヴハウスの魅力だよな。

 店長とも仲良くなった俺は、タダ見を許されてはいるが、将来的に年一のライヴを約束させられている。世界を獲ってからでいい。世界一のバンドがここでプレイする。しかもノーギャラでな。そんな光景を見たいんだ。当然チケット代も取りゃしない。

 そんな言葉を聞けば、店長の人柄も分かる筈だ。

 まぁ、まだまだだっていう現実は受け止めているよ。

 その後俺は奴に誘われた。まさかの言葉だったよ。店長には内緒だと言われれば、断る理由は思い浮かばない。

 誕生日パーティーに参加するなんて、楽しさしか感じなかった。

 奴の思惑は別として、俺はバンドでの参加を試みた。というか、当時の俺にはそれ以外の選択肢はなかったんだ。

 結果としては最高のパーティーだったよ。奴との共演は、新しい発見の連続だった。単純な繋ぎなんかじゃない。俺達の曲にも参加して貰ったし、奴の曲をバックで演奏したりもした。奴がいる事で、常に音楽に浸る事が出来たんだ。

 まぁ、無音もまた音楽と捉える事は出来るし、それも必要ではある。実際に俺達も奴もそんな間合いを取り入れている。

 一番の収穫は当然奴との融合ではあるが、それ以外の収穫も大きかった。

 店長の知り合いはなにも大物アーティストだけではなかった。プロモーターやらディレクターやらの裏方も多くやって来る。おかげで俺達の顔は拡がった。

 奴はその日からかけがいのないパートナーだよ。

 メンバーにしなかった理由は一つ。その日チラシを持って来ないでいた。なんてな・・・・ そもそも奴を誘う気はなかった。奴はその名を背負ってこそ価値がある存在だよ。俺達なんて、奴のフィーチャリングが精一杯だ。

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