表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/104

89

   代走、黄坂晴宏(こうさか はるき) 主にシンセサイザー担当


 あいつの噂なら聴いていたよ。

 少なくとも学校内では有名人だ。

 世間的にも騒がれていたから、俺は嫌いだった。ネット上で聞いた音はどこか薄っぺらい。

 俺は分厚い音が好きなんだ。

 理想はイエローミュージックだ。電子の生音が大好きだ。ゲーム音楽なんて最高だろ?

 勘違いはしないで欲しい。テレビから聞こえてくる音は偽物だ。本物はその中にある。俺はゲームの中でその音を聴いている。

 まぁ、音源だけ聴いて満足している輩とは違う。音楽と女はやっぱり生に限る。

 ゲーム音を楽しむ方法は二つある。生演奏を聴きに行くだけじゃない所が特別なんだよ。

 ゲームをすればいい。

 ただボケーッとするだけでもいい。ゲームの世界に入れればそれだけでその音を楽しめる。

 それは上辺だけじゃないという意味だ。

 俺はあいつらとは違う。初めはそう思っていた。あいつらの音楽なんて、上辺だけだろ? ただの格好つけだ。既成の音楽を模倣して楽しんでいる。その事自体を否定はしない。模倣なしの進化は難しい。

 けれど俺はそういうのに興味がない。

 新しい音を求めている。その答えが電子音の中にあると考え模索していた。

 けれど現実は、俺もあいつらも似たり寄ったりだ。いいや、そうじゃないって事を認められなかったから俺は誘われなかったんだよ。

 電子音楽好きっていう時点で負けていた。あいつらは単純に音を楽しんでいる。それだけだったんだ。ジャンルに対する拘りなんて少しもない。九人に拘っているのは、ほんの遊び心に過ぎない。野球場でロックナイン? それさえただの言い訳にしか感じなかった。あいつらは完全に新しい事をやっていた。その隠れ蓑にロックナインを利用していたんだって思っている。

 新しい事をすれば叩かれる。それは現実だからな。

 俺は自分の音をネット上に発表していた。それがなかなかの評判だったようだ。

 まぁ、あいつらには勝てなかったけどな。あいつらは自分では一つも画像をアップしていない。勝手に溢れ出していった。

 俺の音に気がついたのはあいつじゃない。隣の席の永井さんが気が付き、声をかけてくれた。

 そしてその後に永井さんが突然、手を挙げた。

 黄坂君だったの?

 何が? って表情で顔を向けた。

 その着信音、自作でしょ?

 しまった! 心でそう叫んでいた。

 この学校の生徒なのはバレバレだったけど、まさか黄坂君だとは思わなかったわ。

 いや・・・・

 誤魔化しても意味がないなとすぐに感じたよ。というか俺は、恥ずかしい男なんだ。アイドルとの交際を匂わすテレビっ子と変わらない。わざとこの学校の生徒である事を匂わせ、着信音にしている事もその楽曲も映像で流している。こうなる事を半分は願っていた。

 そうだよ。願っていたのは半分だけだ。もう半分は警戒していた。恐れと言った方が正しいよな。着信音に関しては本当に注意していたんだ。普段はマナーモードを外すなんて事はしていなかった。アップデートか何かのタイミングでそうなっていた事を忘れていただけだ。

 ・・・・キモいって思うんだろ?

 永井さんの顔を見ずにそう言った。

 何言ってるのよ! チョーカッコいいじゃない!

 何故だか興奮している永井さんは、俺の肩を揺さぶった。

 他の音源も聴かせてよ! 私ずっとファンだったんだよ! この学校にいるのは知ってたけど、まさかの黄坂君だよ! ねぇ! あなたって最高じゃん!

 俺の戸惑いは当然だな。恋心はなくとも、同級生の女子が興奮する姿なんて驚きでしかない。それも、俺に対しての興奮だ。危うく勘違いで抱き締めてしまいそうになったじゃないか。

 まぁ、その前に理性が働いたのは俺の精神力とは無関係だ。周りからの好奇心に永井さんが我を取り戻したからに過ぎない。

 その日から俺は永井さんとよくお喋りをしている。女子と普通に仲良くなるのは初めてだ。音楽の趣味が合うとそれだけで相手が異性だとかの区別が消えていく。残念ながら俺にとっての永井さんは、完璧なる音楽仲間だ。

 ゲーム音楽に詳しい人間との出会いは初めてだった。俺が知っている知り合いはネット上にしかいない。会話をする事は出来ても、何処か心が通じない。誤魔化しながら進んでいく会話は、やっぱり味気ないものがある。その方が気楽でいいとも言えるんだけどね。

 永井さんは色々な音楽の話をするけれど、彼とのバンドの話は決してしない。それが何故なのかは聴かない事にしている。恋心がないとはいえ、嫉妬はするんだよな。

 黄坂君がいいと思います! 彼の音楽、最高なんですよ!

 おかしな事を言い出したと、全員が困惑をした。当然そこには俺も含まれている。

 それは学園祭のライヴバンド募集を学級委員が誘った時の出来事だ。

 そもそも俺はバンドなんて組んでいない。電子音楽はただの趣味だったんだ。

 黄坂君ならきっと盛り上げられます。私が保証しますから!

 教室内の空気を感じ、永井さんは叫んだ。

 するとみんなが頷いた。永井さんも参加するなら間違い無いよね。っていうか、ロックナインも参加するなんて凄くない?

 そんな声に俺は震えたけれど、永井さんは笑顔で頷いた。

 そんな訳で決まった学園祭の出演だけれど、意外な事に彼は喜んでいた。永井さん経由で俺の音を聴いていたからってのもあるけれど、彼は純粋に音楽が好きなんだ。ジャンルなんて彼にとっては意味をなさない。全く、俺は初めて脱帽の意味を実感させられた。

 あいつらとの学園祭ライヴは、まさかの一発本番だった。永井さんとは何度も打ち合わせをしていたけれど、何故だかまるで反映されていない。馬鹿にされているのか? そう思ったけれど、そうではなかった。

 あいつらは・・・・ なんて言うにはおかしな話だ。あいつは狂っている。

 あいつの音楽がこれ程までとは思いもしなかったよ。ノリで決まってしまった学園祭。正直俺は嫌われさえしなければそれでよかった。無事にやり過ごす事だけを考えていた。それはそうだよな。一度もリハーサルをしていないんだ。結果なんて見えっこない。

 まぁ、狂っているのはあいつだけれど、周りも相当に感化されていた。特に永井さんはあいつの彼女ってだけの事はある。

 ロックナインの連中は学園祭の話を当日まで知らされていなかった。あいつらにとってはよくある事らしいけれど、俺としてはビックリだよ。リハがないのは仕方がない。

 けれどやっぱり、桁違いだった。同い年の俺が言うんだから間違いは少ない。

 ライヴの盛り上がりは想像を超えていた。これこそがプロなんだなって感想に疑いはない。

 あいつらの音楽が好きだ。俺との相性も悪くはない。けれどな、俺には荷が重過ぎた。

 結果俺は誘われなかったけれど、たまにゲストに呼ばれている。俺の音が入るとあいつらは輝く。けれどそれは、あくまでもオマケなんだよな。

 俺は俺のいないあいつらが大好きなんだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ