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代打、クリス古本 主にオルガン担当
私は完全に部外者なのよね。
それでも構わないわよ。彼等と一緒にいられるってだけで幸せだもの。
一緒にやらないかって声をかけられはしたけれど、それでお終い。噂に聞くメンバー募集のチラシは貰えていない。
最後の一人は誰だ? そんな話題を知らないミュージシャンはいなかったわよ。あの時期のライヴハウス界隈では、誰もがその噂を持ち出し、誰もがソワソワしていたもの。
私もその一人だったって訳よ。
残念ながら声はかかったけれどそこでお終い。初の脱落者ってのがせめてもの救いね。後に続いた三人とは一緒にされたくはないわ。特に最後のあいつだけは絶対に認めないんだから!
こう見えても私は乙女なのよ。この恋心は誰にも邪魔させないんだからね。
って、何の話をしてたんだっけ?
あぁそうそう。彼等との出会いよね。
私はこの界隈じゃそこそこに名の知れたオルガニストなのよ。元々はクラシック育ちで、大きな教会でよくパイプオルガンを弾いていたわ。
彼は突然現れたのよ。まるで信仰心なんてない顔をしていたわ。それもそうよね。私だって神様なんて信じていないんだから。
信仰心なんてクソよ。音楽はね、楽しければそれでいいの。神様だって同じじゃない? 信じたければ信じればいいし、結局は好き嫌いだけなのよね。私はイエスもブッダも大好きなのよ! けれど残念ながらミコトは肌に合わなかったってだけよ。
だからあいつとも合わないのよ!
あいつの実家は神主なんだから! 人ってのは見た目じゃ計り知れないって事の証明よね。
あいつこそブッダなんだから・・・・
なんて事はここでは無関係な話よね。
その音、球場でも出せるかな?
彼の声に私の身体が震えた。
音楽家っていうのは常に神経を張り巡らしているものなのよ。身体全体でその空気感を感じながら表現するの。側に誰かが近付いたのなら、気付かない筈ないのよ。
彼が初めてだった。
話しかけられた事に驚いた私は、その顔を見て更に驚いたんだけれど、名前を聞いた瞬間には気絶しそうになったわよ。
顔は知らなかったけれど、ハンサムな男には弱いのよ。
・・・・教会じゃないと、無理よね。
私がそう言うと、彼は寂しそうにはにかんだ。
その顔がまた、色っぽい。
私がうっとりしていると、彼は爽やかなタメ息をついてこう言った。
その音が欲しいんだ。一度試してみないか?
大きな間を作ってから、きっと無理よ。オルガンなら弾けるけど、あなたの願いは叶わない。
私がそう言うと、彼はそれでもいいからと頭を下げた。
そして私は小さいけれど大きなフェスで演奏する事になった。
彼にとっては二度目のスタジアム公演。大っぴらにはされていないのは何故? 公式の公演情報には一度も上がった事がない。レアって言えばそれまでだけれど、正式メンバー以外がレコードデビュー前に行ったライヴで公表されているのはあいつがいた時だけなのよね。まったく! 腹が立つって言いたいんだけれど、私も同時に誘われているんだから文句が言い辛いったらありゃしないのよ!
今思えばだけれど、デヴュー前に正式メンバー以外で二度も誘われているのは私だけなのよね。これはまぁ、自慢じゃないわよ。
その日はこの街の教会で演奏していたのよね。歴史のある古い教会での演奏は、いつだって興奮するものよ。
私の演奏はつい熱くなってしまう。ノリノリって程ではないけれど、この感情が止まらない。
それは参拝者の心理にも影響してしまうんだけれど、ある種の人間にはそれがとても強く、好影響だけでなく悪影響を与えてしまう事もあるようね。
私が演奏した次の日には嫌な事件が起きる事が多々ある。そしてその犯人は必ずこう言う。
教会で御告げがあったんだ。パイプオルガンの音色が示唆してくれた。
だからって、私が取り調べを受けた事はない。その演奏を聴きに来た刑事がいたって程度。
いい影響の方は、あまり話題にならない。総選挙の当日、この国のお偉いさんがやって来た事は、どういう訳か報道されていない。多いんだよね。政府の人間がミサに参加するのって。
彼もまた偶然を装ってやって来た。後で知ったんだけど、教会の信仰に賛成している訳ではなく、私の噂を聞いた訳でもなく、単純に音楽に誘われて迷い込んできたそうよ。
常に楽しい音を求めている彼だから、偶然と呼ぶのはわざとらしいわね。
その前に一度、ここで試すってのはどう?
正直に言って、ここでなら上手くいく自信があったのよね。
という訳で、翌週のミサ開催が急遽決定したのよ。
ミサの様子は彼から聞いた方がいいかもね。私は完璧だと思ったんだから。それでも誘われなかった理由は彼にしか分からない。他のメンバーも喜んでいたしね。
彼を恨んでなんかいないわ。その後にゲストとして何度も招かれているんだから、嫌われたっていうよりも、やっぱり音響的な問題なのよ。
それでもあの日の楽屋での彼の態度はいただけないわよ。
とても興奮をしていたのは分かるわよ。しきりに私の演奏を褒めてくれたからね。けれど私がちょっと意地悪を言った途端、挙動がおかしくなったのよね。
カバンの置いてある場所に近付いて中身を何度も確認しては立ち上がってはうろついて、また近付く。そんな事を私の顔をチラチラ見ながらしていたのよ。
渡したいものがあるんでしょ?
当然私はそれがないとを知っていてそう言った。
噂のチラシが貰えないって事は確信していたのよ。あまりにも素晴らしい演奏だったからね。あれを超える事は今後も不可能なのよ。彼らのベストライヴだって自覚があるのは私だけじゃないって事なの。
だから私には滑稽に映ってしまったのよね。
彼にはもっと堂々として欲しかったのよ。動揺するなんて格好悪いじゃない?
まぁ、それも彼の魅力の一つなのよね。完璧じゃないから人は生きていけるのよ。完璧になってしまったら神様と同じじゃないのよ!
つまりは天国の住人って事ね。




