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吹奏楽の中に浮かぶマリンバの音は特別輝いていた。俺はその音を聞いて、ロックにこそ相応しいと感じた。マンドリンとも相性は良さそうだ。
あの子の勧誘は簡単だったが、ちょっと嫌な予感も抱いている。
あの子は可愛くて積極的で鈍感だ。素直に伸とくっついてくれればいいが、あの態度が誤解を生まない事を祈っている。
当日は音楽室で音合わせをする事になった。おかまちゃんが校長先生に頼んでくれたって事になっているが、きっと彼がそう言ったからに違いない。校長はずっと彼のファンだと言っていた。俺はそれを、親父の傍でよく聞かされていた。
学校に用意されたマリンバは当然あの子の私物ではないし、それ程いい物でもない。けれどあの子は、飛び切りイカした音を出す。
楽器全般に言える事だが、打楽器程に演奏者の感情が露わになる楽器はない。
その手から想いが伝わる。性格までもが伝わってしまう危険な楽器でもあるんだ。
だからドラマーに嫌な奴は少ない。ピアニストも同じだよ。
まぁ、多少は性格が悪くてもいい音を出す場合もあるが、そういうのは長く聞くと疲れてしまう。感情の好みは人それぞれだ。それでもやっぱり、嫌な奴の音は飽きが早い。
あの子の音が加わると、俺達の音は華やかさを増していった。求めていた音が拡がっていく。その感覚は最高に気持ちがいい。
練習時間はあっという間に過ぎていく。もっとも俺はそれを練習だと意識なんてしていない。音楽を奏でるのに練習も本番も関係ない。単にその場を表現しているだけ。技術が未熟なのも自身を表現しているし、技術を高める為の練習だってそうだ。全ては自己表現だよ。それを見られるのが恥ずかしいって感情は残念ながら俺にはない。あの子もそうだ。練習の中で表現に磨きをかけていく。練習であっても本番であっても、やる事は変わらない。
豪華な昼飯を頂いて、また演奏をして迎えが来てから準備をして会場に向かう。こんな毎日が嬉しい。
完全アウェーでのライヴは緊張感が半端じゃない。普段の俺ならそれを楽しむんだが、流石にこの日はレベルが違っていた。
俺もトシさんもその他もたった一人を除いては大緊張だった。俺はステージを歩く際に自分の足と手が揃っている事を認識していたが、直す事は出来ないでいた。
あの子は凄いよ。
俺達の戸惑いなんて気にせずマリンバを叩き出した。その軽快なリズムは、観客だけではなく、俺達の緊張も解していく。




