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ステージ脇で見ていた俺を、彼は突然手招きしてきた。戸惑う俺の背中を、その子が押した。
彼はその場で俺の事を紹介して、翌日の告知までし始めた。
きっと明日、こいつらがまた一発かましてくれるぞ。その言葉の真意は伝わらずとも、観客は盛り上がった。俺は彼と一緒に、彼がバンド時代に演奏していた外国の曲を歌う事になった。それは何とも異様な盛り上がりだったよ。
その日の演奏は伝説になっている。彼の計らいで映像は完全消去され、観客の撮影した映像が僅かには残されているが、どれもその焦点がぶれていた。あの場にいたのなら、興奮状態が平常だ。まともに映像を撮れる筈もない。スタッフ以外はね。だからあの日の事は口伝のみだ。この先もずっと。
だが実際は彼の事務所と孫娘の手元に残されている。俺はその映像を受け取った。俺が世間に流すならそれも認めるとは言われたが、そのつもりはない。メンバーにだけは今後見せるだろうな。そこでお終い。俺はその日、それを消去すると決めている。
二日間続けてのライヴは初めてだったが、不安はない。あいつらはきっと喜ぶ。彼は迎えにくると言っていたし、何故だかおかまちゃんと知り合いで連絡を入れると言っていた。学校側の協力も得られる筈だと笑っていた。
あの子への誘いは当日になってしまったが、まぁ問題はない。以前から話はしていた。伸の恋人だからな。伸から伝えて貰うのもありだが、そこら辺のけじめは大事なんだよ。
俺の言葉にあの子は戸惑わない。
真っ直ぐに頷く姿は流石だった。
それもそうだろう。あの子は他とは踏んでいる場数も内容も大違いだ。
俺は実際にその姿を見ている。
トシさんは俺と出会う以前から二人を知っている。そして俺にまず、あの子を勧めた。
それ以前からあの子の存在だけは知っていた。伸の事は全く知らなかったがな。
トシさんの母校には全国大会常連で優勝経験も豊富な吹奏楽部があった。夕方のニュースショーでよく取り上げられ、吹奏楽部には珍しいマンドリンが話題になる事も多い。あの子の演奏は当時から特別だった。
その演奏は本当に特別だった。残念ながら俺はあの時初めて吹奏楽で感動したよ。吹奏楽なんてやかましいだけだと思っていた。小学生の時は特にそうだ。放課後に遊んでいると、友達の声が聞こえなくなる。ドッジボールやゴロベーの邪魔でしかない。中学時代も同じだった。甲子園で聞こえる音も、俺には不快だった。真剣勝負に集中したいってずっと感じていた。まぁ、ロックナインを目指す俺が言うと矛盾を感じるがそれは仕方ない。当然今ではその音を好んで聞いている。まぁ許して欲しい。




