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   七、八人いれば怖くない


 あの子はやっぱり最高だった。

 ライヴのオファーは引っ切りなしだが、まさかフェスの翌日に呼ばれるとは驚きだよな。しかもフェスの間に突然本人に呼び出されるなんて、こんな経験は初めてだよ。

 彼はフェスには参加していなかったが、バンドメンバーの一人が別バンドで参加をしていて、彼はただ単純に遊びに来ていた。当然ゲスト出演すらあり得ない状況だったんだ。

 それはつまり、事務的な話ではある。

 彼はまぁ、そんな細かい男じゃない。気分が乗ればお構いなしだ。

 俺達の演奏を偶然観賞していたと言っていたけれど、その偶然はだいぶ無理矢理だった。

 音楽の世界は意外と狭い。学生の世界の方が余程巨大だ。

 彼には俺達より少し年下の孫娘がいる。その子から噂を聞かされ、ツテを使ってフェスの参加情報を聞き出した。彼の側には当然、その子が座っていた。

 会場をふらついていた俺は彼の取り巻きに拉致された。何も聞かれないまま両腕を掴まれて連行されるなんて、まるで映画だよな。

 俺は全く抵抗をしなかったが、それは単純に驚いていたからだ。いきなりサングラスをかけたスーツ姿の男に囲まれる経験なんて普通はしない。

 こんな嫌がらせ、初めてですよ。

 連れて行かれた楽屋で目に留まった彼に真っ直ぐ立ち向かい、そう言った。

 そうかそうか、そいつは悪かったな。

 彼は微動だにせずそう言った。

 君達のライヴ、最高だったよ。明日は暇だろ? 良かったら武道館で演ってみないか?

 あまりにも予想外の言葉に俺の思考は完全停止だ。立ったまま口だけがパクパクしていた。

 今から俺もステージに立つ。これで互角だな。まぁ、ゆっくり楽しんでくれ。

 彼は横に座る孫娘に何やら耳打ちをすると立ち上がり、レッツロックンロール! そう叫んで楽屋を後にした。

 いつもああなのよ。

 その子がそう言った。

 ウウォーッ!

 その世界の盛り上がりが楽屋にまで伝わってきた。フェスの楽屋はプレハブ小屋の場所も多い。俺達は出演者ごちゃ混ぜのトイレもない小屋だったが、彼がいた場所は違っていた。小さくはあってもシャワーもトイレも付いていて、バンド専用に用意されている小屋だった。

 何が起きたのかは明らかだった。彼が飛び入りした。それはまさに事件だ。

 長い活動の中で、彼がフェスに参加をするのは初めての事だった。テレビの企画でも実現していない。それは彼がデヴューしたバンド時代も同様だった。

 彼は基本、ワンマンライヴしかしない。前座をつけた事も今回が初めてで、今後はしないとMCで語っていた。

 俺は孫娘のその子と一緒にステージを覗きに行った。彼の行動力は凄まじい。俺はその時初めて、誰かを心から尊敬してしまった。

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