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今は便利な時代だ。トロンボーンは管楽器とはいえ大きなステージでは当然マイクが必要になる。マイクスタンドの前で吹くってやり方はもう古い。無線マイクを花弁に取り付ければ自由に動き回りながら演奏出来る。それは他の楽器も同様だ。俺だって自由に紐なしマイクで大暴れしている。
あいつの演奏は流石だった。
何とも言えないあの感じは初めて聞く観客には驚きだよな。
間の抜けたあの音色は、バンドの中では物凄く異質で、物凄く目立つ。しかも歌心が物凄い。観客の心に真っ直ぐ届くんだから羨ましいよ。
あいつが加わった事で俺達の演奏は盛り上がった。後はもう勢いのままに突っ走るだけだ。ロックナインの体裁はどうでも良くなっていたよ。
音楽なんてそういうもんだ。楽しければそれでいい。楽しい音楽と楽しい野球を組み合わせたんだが、この日は序盤から既に野球を忘れる程音楽だけに集中してしまった。
俺としては少し、悔しかった。
俺の感情が、あいつに負けたって事だからな。
俺の歌があいつのトロンボーンを凌駕しない限り、ロックナインは成立しない。
けれどまぁ、初の野外フェスは大成功だ。あの盛り上がりは間違いなくその日のベストアクトだった。最後までいた俺が言うんだから間違いない。と思うよ。
あいつもほぼずっと俺と一緒にフェスを最後まで楽しんでいた。いい度胸だよな。大物が近寄ってきてもまるで物怖じしない。更にあいつは勘違い。大物達の目当ては俺じゃない。あいつの歌に興味津々だった。ただ、俺の情報は持っていても、あいつに関しては全くの無知だ。ネタがなければ言葉に詰まる。それって実際は最高の尊敬表現なんだよ。憧れの存在を前にするのと同じだからな。あいつは既に大物に認められていたって事だ。俺とは大違いだよ。俺なんて所詮面白がられているだけだ。ちょっと変わった奴がステージ上で暴れている。観客が盛り上がっているんだからそれでいいんじゃないかなってな具合で上から目線で俺を見ているんだよ。まぁ、本気で相手にされるにはまだまだ途上だって事は理解しているし、面白がって呼んで貰えているだけで有難い。
あいつにもメンバー募集のチラシを渡したが、あんなに怒るとは驚きだよ。こんなのは紙切れに過ぎないし、形式として行なっているだけだ。あいつとは、っていうかあいつだけじゃない、スタジオに誘った奴らは皆、その一音を重ねた瞬間からメンバーだ。例外はない。
っていう事でまぁ野外ライヴは大成功ではあったが、俺の欲求不満は高まるばかりだ。




