70
初の野外フェスの話がこんなにも早く舞い込んでくるとは驚きだった。しかも目標にしていたスタジアムだ。
俺はこれをあいつのおかげだと思っている。
現実はそうじゃないって事は承知の上でそう感じている。あいつが来る前からの人脈で得た出演だし、あいつの事なんてまだ誰も知らない状態だった。トシとは違うって事だ。
けれどあいつが来た事によって話が好転している事に違いはない。あいつが来る前にも別口でそのフェスへの依頼はあったんだ。俺は当然断らない。けれど向こう側からなかった話にされてしまった。まぁ、タイミングの問題ってやつだ。
憧れのスタジアムライヴではあったが、思い通りにはいかないもんだと痛感させられたよ。
俺が目指すのはあくまでもロックナインだ。ロックと野球の融合だ。しかも、完璧な形でな。
スタジアムに立てば当然その形を試したくなってしまう。しかしまだ七人だ。中途半端になるのは嫌だった。それでも形には残したい。
とは言ってもフェスで与えられるのはステージ上でのパフォーマンスでしかない。広いスタジアムを有効活用しないなんて勿体無い。
そこで俺は考えた。ほんの少しだけ野球の要素を取り入れる。
試合開始はステージ上に現れた優美のアナウンスから始まり、ベース音が這いずり回り、守が現れてドラムを叩く。その後ゾロゾロと集まったメンバー達が音を重ねていく。
俺の出番は最後ではない。その日そこにいた俺達を知っている奴らからすれば、俺が最後の登場の様に見えていた筈だ。まぁ、そういった演出だよ。
トシさんのプレイボールの叫びと共に歌い出す。バックの演奏がパタッと消える。
歌の中の合図で守が重なり、優美が重なり二郎、トシさん、華撃と繋がっていく。
会場の盛り上がりはとても嬉しい。俺は笑顔でステージ上を駆け回る。本来ならダイヤモンドを一周したい気分だ。
会場を煽るだけ煽った後、ステージからはける。イメージとしてはベンチに戻るって感じだ。
その後あいつを連れてステージに戻って行く。俺はバカだから、ステージ袖からあいつが演奏を始めてしまった事に気付かなかった。




