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先輩はやっぱり恵まれている。
ジャズバーの二階にあるトシさんの部屋でほんの少し雑談をしていると、下から先輩を呼ぶ叫びが聞こえてきました。
速井くーん! お客さんだよ!
先輩はトシさんのお母さんにも気に入られています。
先輩と共に優美さんと遊佐さんと音尾さんが駆け下りました。僕はついて行きません。だってそうだ。呼ばれたのは先輩だけです。
先輩を訪ねて来たのは何処かのお偉いさんだった。正確にはプロモーターらしいけれど、先輩はそう呼んでいました。
翌日の朝から始まる野外フェスティバルに欠員が出た為の急遽の打診だった。
先輩は場所も出演時間も聞かずに引き受けます。そもそも先輩は断る事をしません。演奏出来る場所があれば何処へでも行きたがる。皆の予定なんて後回しです。けれど、自分の予定さえ無視をするところは皆大好きです。
三人がついて行ったのは大正解だったようです。特に遊佐さんはマネージャーのようにプロモーターと関わっていました。まるでマネージャーじゃんかと本人に言った事がありますが、笑うだけで否定はしませんでした。僕は勝手に考えています。遊佐さんには僕達の倍報酬を渡すべきなんだと。
そのフェスはそこそこの規模があるもので、海外からも国内からも有名どころがやって来ます。しかも、これが重要なんですが、一般的な有名どころではなく、音楽好きの間での有名どころが大勢集まるのです。それこそが最高なのだよ!
出番はまさかのメイン会場オープニングアクトだった。それは名誉な事なのか? 正直微妙ではあるけれど仕方がありません。辞退したのは大トリです。流石にそこの代わりはまだ時期早々です。
野外ライヴなんてそれだけで興奮します。フェスと言ってもステージの数はそれ程多くあません。来場客ほぼ全ての視線が集まるなんて、最高でしかありません。
その日は最高でした。僕のお披露目って事もありましたが、いつも以上の盛り上がりです。僕個人としてはですけれど、確かな手応えがそこにはありました。
出番が終わってからも僕は帰りません。他のメンバーは先輩を除いて皆が帰っていきました。その理由は単純な寝不足です。先輩と行動を共にするには標準以上の体力が必要なのです。
単純に音楽好きで、フェス好きです。せっかくタダで楽しめるのです。帰るなんて勿体ない。
殆どの時間を先輩と一緒に過ごしていたのは、先輩に憧れているからではなく、先輩といると楽しいからです。知り合いでもないのに、先輩は多くのミュージシャンから声をかけられます。有名どころからも、そうではないところかも。そしていつでも笑顔溢れる現場を作ります。




