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 由は恵まれている。マリンバは一台しかなく、担当は一人きり。由の前の担当者は入れ違いで卒業しているからライバルもいない。羨ましい限りだ。もっとも、由の演奏を聞けば誰もマリンバを演奏したいとは思わない。憧れたとしても、由よりも上手にマリンバを演奏する事は不可能なのです。

 勝負なんて関係のない演奏をするのは初めての体験でした。その事を練習後に話すと、先輩は目を丸くしました。

 お前ってバカなのか? 音楽は楽しんでこそだろ? 勝負なんてのは観る側が勝手に決めればいい。これは野球じゃあないんだからな。

 その言葉に何故だか僕と先輩以外の皆が大笑いをしていた。どういう事? 説明をしてよと、呆けた顔を浮かべました。

 先輩が目指す音楽はロックナインです。そもそも僕はそんなジャンル聞いた事もない。九人で演奏しながら野球をするとかよく分からない説明をされました。しかも対戦形式で行うとも言います。意味が分からない。その後ロックナインの元祖を聞いてみましたが、先輩の主張は分からないままです。

 音楽は日々真剣勝負だっていうのが先輩の考え方です。それは誰かと戦うという意味ではなく、常に全力で楽しむって事だそうです。全力で楽しめれば勝負は勝ちです。楽しめなければ負けだそうです。それを野球場で散らばって演奏するのがロックナインだそうです。先輩はそれを対バン形式で行いたいそうです。僕だけでなく、他のメンバーもまだ戸惑っています。いつか来るその日は、楽しみよりも不安が多いのが現実だったりします。

 スタジオ練習は翌日も予約されていた。土曜日だからそのまま寝ずにだって構わないと思っていたら、先輩達はそのつもりだったようで、始発に乗ってトシさんのお母さんが経営しているジャズバーに向かってそこで練習を始めた。

 毎週こんなペースで練習しているのかと驚いたけれど、先輩達には当然の事だった。集まってなくても個人練習は忘れないし、それぞれが何も言わずともアイディアを持ち寄ってくる。夜中のスタジオは僕の為の練習がメインであったけれど、新曲が二曲も形を表した。本当に凄いバンドに参加してしまったと鳥肌立ったのを覚えています。

 ジャズバーでの練習は二時で打ち切りでした。夕方からのバンドがリハーサルの為に顔を出したからですが、何故だかトシさんにだけ義こちない挨拶をするとすぐに楽屋に駆け込みました。その様子に先輩が大笑いしていましたが、そのバンドメンバーはほんの少し眉に皺を寄せるだけですぐに弱々しく瞳を潤ませて俯きながら楽屋に消えて行きました。

 その後は解散で、夜中の練習もキャンセルされました。元々は毎週金土の夜は朝までスタジオを押さえていたけれど、突然の誘いに先輩は迷わない。すぐにokを出し、準備を進めます。

 練習スタジオは基本無料でした。元々はお金を払っていたようだけれど、経営者に気に入られてからは空いている時間は優先的に使用しています。お金を取られるのはレコーディング機材を使用した時だけです。

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