表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/104

58


 その日はまさに最高の一日だった。俺は音楽の本質を知った気分になっていた。

 まぁ、間違っちゃいないよな。

 あいつと一緒にその場を再訪した瞬間は感動した。それだけは素直に認める必要がある。

 結果としてライヴは上出来だった。憧れのあの人も満足気だった。普段は決して演らないバンド時代の代表曲をアンコール前に歌ってくれた。楽屋でもいきなりハグされたし、打ち上げにも誘われた。あいつも含めた全員が打ち上げを拒否したけれど、それには事情があった。次の日が土曜だっていうのに体育祭だったんだ。

 俺は取り敢えずあいつにメンバー募集のチラシを手渡した。

 あいつは素直に受け入れた。

 正直言ってあいつが入った事で俺達は完成された。最終目標のロックナインにはまだ足りていないが、音楽的満足度は得ている。後はオマケっていうのが現時点での感想だ。

 前座っていう立場ではあっても、観客が喜び、メインのあの人も大喜びだった。

 以前はそれで満足をしていたが、この日は少し違っていた。思ってもいなかった感情が俺を襲った。

 もう前座は嫌だ。

 俺は俺達を求める観客に対して演奏をしたい。本気でそう考えている。

 誰かの行為に甘えるのは卒業だ。

 ワンマンではなくてもいい。メインを張りたい。これ程までに嫉妬を覚えるのは初めてだった。それまではどちらかといえばメインを喰う勢いがあったし、その実感もあった。けれどあの人には及ばないのが俺達の現状だった。あの人はステージに現れた瞬間にそれまでの空気を一変させる。俺達がそこにいたなんて事実さえ消えてしまったかのようだ。演奏を始めてからは、それが完全に消えてしまった。それが事実だ。あそこに足を運ばせていた観客で、俺達の存在を意識して覚えている者は皆無だと思う。哀しい現実だな。

 それでも救いはあったよ。あの人だけは俺達の事をしっかりと覚えてくれていた。

 そして打ち上げに誘われた。

 俺は丁寧に断ったよ。トシさんだけは行くと思っていたし、そうあるべきだと思っていた。

 連絡先は交換しているからとトシさんは浮かない顔で言っていた。流石に今日は参ったよな。俺達の演奏は間違いなく過去最高だ。それでも敵わなかった。いくら向こうのホームだとはいえ、あれ程あっさりと空気をひっくり返されるとショックだな。手応えはあったのにさ。

 トシさんの言葉はみんなが感じている事であり、同様か又はそれ以上のショックを受けていた。井の中の蛙。そんな言葉の景色が浮かぶ。

 俺は一度断った打ち上げに呼び戻されたが、他の皆はそれぞれの時間を過ごしたようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ