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その日はまさに最高の一日だった。俺は音楽の本質を知った気分になっていた。
まぁ、間違っちゃいないよな。
あいつと一緒にその場を再訪した瞬間は感動した。それだけは素直に認める必要がある。
結果としてライヴは上出来だった。憧れのあの人も満足気だった。普段は決して演らないバンド時代の代表曲をアンコール前に歌ってくれた。楽屋でもいきなりハグされたし、打ち上げにも誘われた。あいつも含めた全員が打ち上げを拒否したけれど、それには事情があった。次の日が土曜だっていうのに体育祭だったんだ。
俺は取り敢えずあいつにメンバー募集のチラシを手渡した。
あいつは素直に受け入れた。
正直言ってあいつが入った事で俺達は完成された。最終目標のロックナインにはまだ足りていないが、音楽的満足度は得ている。後はオマケっていうのが現時点での感想だ。
前座っていう立場ではあっても、観客が喜び、メインのあの人も大喜びだった。
以前はそれで満足をしていたが、この日は少し違っていた。思ってもいなかった感情が俺を襲った。
もう前座は嫌だ。
俺は俺達を求める観客に対して演奏をしたい。本気でそう考えている。
誰かの行為に甘えるのは卒業だ。
ワンマンではなくてもいい。メインを張りたい。これ程までに嫉妬を覚えるのは初めてだった。それまではどちらかといえばメインを喰う勢いがあったし、その実感もあった。けれどあの人には及ばないのが俺達の現状だった。あの人はステージに現れた瞬間にそれまでの空気を一変させる。俺達がそこにいたなんて事実さえ消えてしまったかのようだ。演奏を始めてからは、それが完全に消えてしまった。それが事実だ。あそこに足を運ばせていた観客で、俺達の存在を意識して覚えている者は皆無だと思う。哀しい現実だな。
それでも救いはあったよ。あの人だけは俺達の事をしっかりと覚えてくれていた。
そして打ち上げに誘われた。
俺は丁寧に断ったよ。トシさんだけは行くと思っていたし、そうあるべきだと思っていた。
連絡先は交換しているからとトシさんは浮かない顔で言っていた。流石に今日は参ったよな。俺達の演奏は間違いなく過去最高だ。それでも敵わなかった。いくら向こうのホームだとはいえ、あれ程あっさりと空気をひっくり返されるとショックだな。手応えはあったのにさ。
トシさんの言葉はみんなが感じている事であり、同様か又はそれ以上のショックを受けていた。井の中の蛙。そんな言葉の景色が浮かぶ。
俺は一度断った打ち上げに呼び戻されたが、他の皆はそれぞれの時間を過ごしたようだ。




