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 そのライヴ会場には物凄い思い入れがある。ビルの最上階にある八百人も入ればギュウギュウのクラブだ。ジャジーな雰囲気が最高なんだ。ウィスキーがよく似合う。

 幼い頃に何度かそこを訪れている。幼いといっても数年前の出来事だな。そこにはあいつも一緒に行っている記憶がある。

 その時見たのは日本のインストバンドだった。キーボードとドラムの二人組。時にドラムが口笛を吹くが、歌う事はない。

 あいつの父親がそのバンドのファンだった。興味を持った俺がついて行ったんだ。ライヴで見られるならどんな音楽でも構わない。当時も今もその想いは変わっていない。

 訪れてまずその空間に感動したのを覚えている。ビルの最上階で、エスカレーターで登って行く。正直そこに行くまでの雰囲気には不安しかない。何度もジグザクと駆け上がるエスカレーターの最後の登りになってようやくガラッと雰囲気が変わり、待合のフロアーからしていい予感が漂っていた。やっぱりどことなく普通のライヴハウスとは違っていた。それはきっと、クラブそのものが発している雰囲気によるところも大きく感じられる。

 洒落た空間って言ってしまえばそれまでだが、それだけじゃない魅力がある。ありきたりだが、行けば分かるってやつだ。

 チケットを見せて中に入る際、バッジを貰えた。まぁ、実際には買ったんだけどな。バッジがドリンクチケットになっている。洒落てはいるが、よくあるって事を後で知った。

 俺は我儘を言ってそのバッチを使わずに今でも持っている。飲み物を頼まなくても払わなければいけないドリンク代だ。代わりにバッチを貰うのも悪くはない。

 あいつの親父さんは優しかった。バッチを使わずにペプシを買ってくれた。まぁ、普段の俺は炭酸は苦手なんだが、この日のペプシは最高に美味しかったのを覚えている。

 会場の雰囲気はパブって感じだが、観客数によって机の量が変わる。その日は端っこに幾つかある程度ではあったが、当時の俺にはその雰囲気が映画の中のようで驚きだったんだ。

 そして始まったライヴは言うまでもなく最高だった。お目当てではなかった前座は想定外だったが、物凄くカッコ良くインパクトがあった。

 当時は知らなかった。その前座は、お目当てのインストバンドよりも有名だった。

 俺はその二組が今でも大好きだ。全くタイプの違う曲ではあったが、不思議と演奏スタイルには多くの共通点が存在していた。

 とにかく楽しくて、笑顔が消えない。全ての客と一体になれる存在感は、努力でなんとかなるものじゃない。

 けれど客層はまるで違っていた。前座は弾き語りのおじちゃんで、肉体派の客が多かった。自らもがっちりした巨体に見えた。そしてほぼほぼ観客は男だった。

 インストバンドの二人は華奢な感じではあったが、演奏中は大きく見える。不思議な存在感だ。観客は若い女性が多かった。今ではイケメン俳優として活躍しているメンバーと同じバンドにいた事が理由かも知れないし、単純に若い女性はいい音楽に敏感だってだけかも知れない。

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