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勉強なんて慣れでしかない。何度もテストを受けて、何度も教科書を読む。それだけでいい。分からない事は調べればいい。塾には通わせて貰ったけれど、意味があったかどうかは分からない。塾での勉強の十倍は家でもしていたから。
合格した事を知った担任教師は、よく頑張ったなとの声をかけてはくれたけれど、私の頑張りなんて一つも知らない。教師を仕事にするのは構わないけれど、先生面されると腹が立つ。
先生って呼ぶのは本来尊敬の念が込められてこそだけれど、試験にさえ合格すれば誰でもそう呼ばれてしまう。それはそれで構わない。ただの区別だからね。呼ぶ側は全く意識もしていないし尊敬もしていない。ただ呼ばれる側は違うようだ。先生と呼ばれる事に心地良さを感じている。特に職業教師に多く見られる傾向だ。本当に先生と呼ぶに相応しい人物は、そんな事は気にしない。
引っ越してすぐバンドに参加するつもりでいたけれど、あいつは何故だか放ったらかし。
同じ家で食事をしているとはいえ、あいつは家にいない事の方が多いし、食事中には殆ど話をしてくれない。後で話そうよと言い、そのまま部屋に篭ってしまう。
だから私は嫌がらせでもしてやろうと別のバンドを探したけれど、ろくなのはいない。私が可愛いからって最初は馬鹿にした態度をとってくる。その後私の演奏を聞くと、とてもじゃないがついて来られず恥をかく。その恥を誤魔化すために音楽性が違うんだよねなんて言って去って行く。音楽性って! くだらない事を言っているからつまらない音しか出せないのよ!
私の音に興味を持ってくれる人もいた。スタジオで練習している音を聞いた別のバンドから声をかけられる事は多く、バンドに入ってくれと誘われる事も何度かあった。
その音が気に入った。
よく言われるセリフだ。
その誘いに乗って何度かスタジオに入った。あいつには内緒だ。ステージにも立っている。
私はあいつと一緒に演奏する資格がある。その自信だけで上達するものだと知った。
面白いバンドは意外と多い。見識が広がる事は、バンドの糧になる。経験も重要なんだ。
それでもやっぱり嫉妬は止まない。こっちに来てからもう二人もメンバーが増えている。私の番が来ないことを危惧し始めていた。
今日の夜なんだけど、初ライヴ、よろしくな。
あいつは朝食の席で突然そう言った。
バカなの? って思った。バカなの? 実際の声も出していた。
新曲やるから、しっかりついてこいよな。お前の見せ場は勿論作るけどさ、何かアイディアがあるなら披露してもいいぞ。曲があればもっといい。
あいつらのスタイルは知っていたからそれ程の驚きはなかった。練られた曲と即興が入り混じっている。そしてどの曲もその場の感情によって変化していく。
特にあいつを見ていると、楽器の演奏にテクニックはいらないって感じてしまう。感情を表現するのが楽器なんだ。ただ速かったり、正確な位置で音を出せばいいって訳じゃない。そういうのはただの繰返し練習だけでも身につく。素直な感情を音に乗せるのが難しい。
クラシックは正確に弾いてこそ意味があると言うけれど、そんなのはつまらない。当時の音を再現するだとか、作曲者の意図を汲み取るだとか、意味があるとは思えない。当時の環境で当時の演奏を聴きたいとは思うけれど、それが出来ないのなら今の環境の今の演奏を聴けばいい。譜面に拘っている以上、私の心には響かない。今の感情を抑えた音楽なんて嫌い。
クラシックなんて言葉がよくない。当時の彼等は自分達の音楽をそんな風には呼んでいなかった筈。当時の最先端がそこにはあった筈だから。当時は当然、楽譜を再現する事に拘りなんてなく、その場の感情を表現していた筈。
あいつらの演奏は、全ての音楽に通じている。不思議だけれど、クラシックもブルースもカントリーもシャンションも演歌も全ての面影を感じる瞬間がある。
だから最高なんだ。何処のバンドで演奏をしていても、何か物足りない。人気があるバンドやプロとしても活躍するメンバーがいるバンドとの共演でもそう感じてしまう。




