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 その日、あいつは戻って来なかった。俺は意外と真面目だ。帰り時間は必ず守る。あいつが戻って来るまで待とうなんて考えはない。忘れていった紙切れをどうするかには迷った。ただのゴミかも知れないし、千円札かも知れない。

 俺はケチだ。無視して帰る事が出来なかった。

 落ちていたのは一枚のチケットだった。なんともまぁ驚いたよ。おっさん達のバンド名が記されていた。会場は数千人規模の野外音楽堂。日付は翌日だ。

 残念な事に俺は、盗んじまおうとは考えなかった。あいつがまた来る事を信じたんだが、それは間違いだった。裏にはメッセージが書かれている。俺宛のな。

 前座のバンドに参加しないか? お前が入ればきっと面白くなるぞ!

 その文字に見覚えはなかったけれど、おっさんの名前と電話番号が書かれていた。俺は半信半疑ながらも確認の為に電話をかけた。おっさんの文字なんて見た事はないし、電話番号も知らなかったけれど、何故だか勝手に確信していた。その文字がおっさんのものであり、電話番号がおっさんに通じる筈と。

 現実は予想外だ。後で知った事だけれど、文字とメッセージはおっさんのモノで間違いなかった。電話番号があいつのだとは思いもしなかった。まぁ、持ち主があいつなんだから当然と言えば当然ではある。

 かけてくると信じていたよ。

 電話口の向こうからは、何かを話す前にそう言われた。

 誰だ?

 咄嗟に出てくる言葉なんてこんなもの。

 誰かも分からずに電話をかけるなんていい度胸してるじゃないか?

 あいつは初めから俺をバカにしている。舐められているのかって思ったけれど、そうじゃない。あいつもバカだからな。あいつは常に対等で話をする。相手が年上でも年下でも変わらない。先生でも総理大臣でも俺達と同じように対応する。勿論赤ん坊に対しても。

 一度あいつに対してバカにしてんのかって問い詰めるバカを見た事がある。流石はあいつだよ。こう答えたんだ。バカになんてしていない。バカだとは思っているがな。

 おっさんとはどういう関係なんだ? あのチケット、普通じゃあ手に入らないモノだろ?

 そのチケットは、関係者専用のチケットだった。あいつが手にしている理由は一つ。メンバーの誰かと知り合いって事。もしくは関係者の誰かだ。その中で俺の事をよく知っているはおっさんだな。残念な事に、おっさんとは一番仲がいい。

 おっさんに誘われて前座としてステージに立つ事になったんだ。新メンバーを探していてね。あんたの事を話すと知り合いだから紹介するって言われた。とにかく明日来て欲しい。参加するかどうかはリハーサルで判断すればいい。

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