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おっさんの事は知っていた。あの容姿だ。一度見れば忘れられない。その日は彼ら二度目のライヴだった。
前回は半月ほど前。若手のジャズバンドは珍しくないけれど、バンド編成が珍しい。ピアノにドラム、ベースが基本になり、サックスとトランペットが自由に遊ぶスタイルだ。そこまでは普通、そこになぜかアジテーターを自称するメンバーがいた。それがおっさんだ。
アジテーターとは扇動者の事らしい。確かにおっさんは観客も演奏者も煽りまくっていた。見た目の貫禄も相まって観客は大盛り上がりだ。
まぁ、十数人ではあったけれどな。
おっさんの掛け声でメンバーが集まる中、俺は求められるがままに演奏を始めた。そして認められたんだ。
凄いだろコイツ! なんて言うおっさんに俺はツッコミを入れる。さっきはヘタクソって言ってたじゃんかよ!
そうだな、確かに下手くそだ。
サックスを演奏するメンバーがそう言った。
俺はすぐに標的を変えてその男を睨みつけた。悪かったな! 今日初めて吹いたんだ! 文句言うんじゃねぇよ!
・・・・まじか?
俺の言葉の後にほんの少しの間が開いた。その後に零したその男の言葉に、おっさんが頷く。
大したもんだろ。俺は正直二・三年はやっているって思ったよ。まぁ、技術的にはまだまだなのはいいとしてだ。こいつの音は誰にも真似出来ない。久し振りに衝撃を受けたよ。覚えている限りじゃあ・・・・ もしかして?
お前がそうなのか?
おっさんの言葉を遮り、ブロッコリーのような髪型の男がそう言った。天然パーマで緑に染めたその髪の毛は、サイズ感といい顔や首の太さといい、スーパーに並んでいたら間違いなく見間違えるであろうブロッコリーその物だった。
ブロッコリーがドラムを叩く。
お前の音、あの人にそっくりだよ。俺は一度一緒に演奏した事があるんだ。忘れもしない。まさかあの時聞いた噂が本当だったとはな。
じゃ、そういう事でこいつのライヴデビューは決まりだな。ゲストで一曲演奏してもらおう。異議はあるか?
おっさんの言葉に俺以外の全員が頷いた。
俺に断る理由はなかったけれど、気になることは多々あった。俺はその場でみんなに尋ねたけれど、リハーサルが終わってからにしてくれと言われてしまい、俺はその場で仕事をこなした。
子供の頃から仕事をしている。初めは母親の手伝いだったけれど、動きも勘もいい俺は重宝され、立派な仕事として給料を貰っていた。今でも手伝いは続けているけれど、なぜか今は無給だ。本業で金を払っているんだから、こっちはボランティアだろ。なんて訳の分からない事を言われる。まぁ、楽しんでいるんだから問題は無いけれどな。
俺の仕事はPA兼ローディーだ。物販の手伝いもする。ウェイターにもなるし時には特製料理も提供している。
リハーサルが終わると真っ直ぐブロッコリーの前に向かい立ちはだかる。
説明してくれ。
黙って頷くと、表に歩き出した。俺は後をつけて行く。背後からはおっさんを含むメンバー全員が付いてくる。来るなよって言う突っ込みは舌上で飲み込んだ。




