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次の日は学校が休みだった。僕は普段のように街に出かけてレコード屋を散策してはお気に入りを買っていた。まぁ、数百円の安いレコードを買うばかりだけどね。音楽を聴く媒体は気にしないけれど、買う時はレコードと決めている。その理由は二つある。音の温かみと、物としての有り難み。形ある物に僕は惹かれる。
家に帰って買ったばかりのレコードに針を落とした時に気がついた。
そういえば明日のライヴは何処でやる? 速井君達の連絡先を知らない。ライヴ会場も時間も聞いていない。どうすればいい? もう日がない。明日は日曜日。学校で会う事も出来ない。
僕の脳味噌は単純だ。迷ったらギターを弾く。それで全てが上手くいく。これまでの短い人生で学んだ事実だよ。
結果上手くいった。僕は朝までギターを弾き続けた。すると日の出の時刻に合図が来た。まるで漫画だ。部屋の窓の小石がぶつかる。ガラスが割れない程度の絶妙な加減は非現実だけれど、割れなかったのが事実なんだから現実は小説より奇なりって事。
小石の音に気がつき外を見た。本来なら危険な行為だ。小石がオデコにぶつかれば痛い。
窓の外には音尾君が一人でいた。
降りて来いと、大きく囁く。口の動きだけで分かったと伝えて窓を閉めてから外に向かった。
お前さ、どうするつもりだったんだよ! 誰もお前の連絡先知らねーって言うしさ、お前も何も聞かずに帰っちまっただろ?
いきなり胸ぐらを掴む勢いで音尾君がそう言った。僕はヒィッと叫びそうになるのを我慢しながらも仰け反る事は我慢出来なかった。そして音尾君の隣でニヤつく速井君を目に留めた。
何故だろう? 音尾君のニヤけ顔は嫌な気分がしないのに、速井君のニヤけ顔には腹が立つ。
僕はずっと演奏していた。準備は出来ている。会場はこれから探せばいいだろ? 連絡先なんて知らなくても永井さんの家を知っている。すぐ側じゃないか。ひょっとして知らないの?
僕がそう言うと、速井君が音尾君を押し退けて僕の目の前に仁王立ちした。
お前、ストーカーか? だったら残念だけど、この話は無かった事にする。
速井君はそう言うとすぐに音尾君に顔を向けた。そして口調は落ち着きながらも表情を狂気じみさせ、こう言った。
どうしてちゃんと調べなかったんだ?
後で知った話だけれど、永井さんはストーカー被害に悩んでいた。僕は知らなかった。僕が永井さんの家を知っているのは偶然に過ぎない。僕はこの高校に入る為にこの街に引っ越してきた。お母さんは独身だし、高校入学のタイミングでアパートの契約が切れた。再契約をするより引っ越す方がお得だったらしい。
そんな訳で引っ越した先が永井さんの近所だった。偶然は、必然でもある。
僕はそれを、入学式の後で知った。帰り道に同じ学校の制服を見かけた。偶然にも僕の帰り道の前を歩く。僕の方こそ新手のストーカーかと勘繰った。僕の家の少し手前で駐車場のない邸宅に入って行く。正直その時は少しも気にかけていなかった。けれど、学校では度々見かけてもいたし、その佇まいが魅力的ではあった。かと言って異性として意識はしていない。
ライヴで永井さんを見た時はあらゆる意味で驚いた。どうしてそこに? それは基本的な疑問ではあるけれど、それ以外の付属の方が情報量が多過ぎて処理仕切れなかった。
高校入学を機にこの街に越しているから、三人の関係性なんて知らない。僕が聞いていた音楽的噂の中に永井さんの登場履歴はない。しかも永井さんの魅力は後ろ姿だと思っていた僕には驚きだった。永井さんは、顔も表情も素敵だ。佇まいがカッコいい。演奏も凄く良かった。上手というよりも情熱的なベースラインだ。それ以外にもステージ上の永井さんはあらゆる僕の知らない情報を発信していた。
けれど気がつかなかった。まさか速井君が永井さんを好きだったとは。家が近所だって事には気がついていたけれど。あの子が永井さんっていう名前だとは結び付いていなかった。僕は単純に同じ学校の子が近所に住んでいる事を知っていて、その子が速井君達のバンドメンバーだと知ったに過ぎない。その名前を知ったのは、永井さんがその名を学校中に知らしめる事件が起きたからだ。今から数週間前の、まだ僕が一年生だった頃のお話。




