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 彼女は時にメインを務める事もあるけれど、基本はコーラス担当だ。いきなり歌い始めた事に会場は大盛り上がりだったけれど、残されたメンバーは焦っていた。なんなんだよ! 慌ててドラムが走り出す。ギターの男の人はヴォーカルの彼に顔を向けて、その顔を傾いだ。ヴォーカルの彼はため息を零す。お前も行ってこいよ。その口がそんなふうに動いていた。

 彼女が歌った歌は、ずっと前に作った曲だけれど、レパートリーには入らなかった曲だ。スタジオでは何度も音合わせをして練り上げた曲だったけれど、ヴォーカルの彼が拒否した事でライヴ披露もせずにレコーディングもしていない。ただ、ヴォーカルの彼がいない隙をついて三人ではよく演奏していた。

 最高にカッコいい曲だった。彼女のベースはまるでミンガスのように畝っていた。そのヴォーカルは、オジーのように荒々しくも愛嬌がある。

 まるでプリンセスだって私には思えた。

 たった一曲だったけれど、彼女の凄さは十分に伝わる。それは私にだけではなく、速井君にも伝わっていたようで、ライヴ後には機会があったら御一緒したいなんて事を恥ずかしげもなく言っていた。

 その後のライヴは普段通りだった。初体験でも周りの反応を見れば分かる。ヴォーカルが変わってからの二曲目以降は異常な盛り上がりから覚めていた。全く盛り上がっていない訳ではなく、これが彼らの通常営業なんだなと感じた。観客は、普通に楽しそうにしていた。

 私は途中で楽屋に引き返した。そこには音尾君がいたけれど、速井君はいなかった。

 あいつは最後まで観てるんじゃないかな?

 音尾君にそう言われた。

 先に帰るけどさ、待ってた方がいいぞ。あいつはお前と二人きりになりたがってるからな。

 えっ・・・・ 馬鹿みたいに言葉を失った。すると、音尾君はゆっくりと立ち上がって荷物を手に近づいてきた。

 あいつといると退屈しないからな。まぁ、よろしく頼むよ。

 ・・・・うん、こちらこそ。混乱する頭が絞り出した言葉はそれだけだった。

 時間にすれば三十分程度だったけれど、私にはとても長く感じられた。頭の中で映画が三回程再生された気がしていた。速井君は四回目のオープニングでようやく姿を表した。

 あれ? あいつはもう帰ったのか?

 部屋を見回しながら速井君はそう言う。

 なんだ? 打ち上げには参加しないのかよ。

 寂しそうにそう言う速井君が可愛らしく見えた。

 まぁいいか。それじゃあ早速だけどさ、本題に入ろうか?

 何故か私はドッキっとする。待っている間にあらゆる想像をして準備してきたけれど、現実はやっぱり緊張度が違う。

 私が脳内で勝手に創作して再生していた映画は、三本共が恋愛モノだった。いきなり教室内で告白されて、戸惑いながらも付き合い始める。色々と小さな事件を積み上げながらお互いの気持ちを確かめ合い、最後にはキスでエンディング。

 思い返すと恥ずかしいけれど、妄想中はとても真剣でとても楽しい。まだ誰にも発表はしていない曲を、私はこんな風にして作っている。ついでに小説や詩を書いたりもしている。

 これなんだけどさ、受け取ってくれるだろ?

 速井君はそう言いながら鞄から取り出した紙を一枚差し出した。

 それはメンバー募集のチラシだった。

 どうして今更? 私はすでにメンバーのつもりでいた。

 私が困惑しているのを速井君は素早く見抜いてくれた。

 これはさ、正式な俺からのお願いっていう意味だよ。これを受け取ってくれたらメンバーになる事を承諾したと俺は解釈している。まぁ、まだ二枚しか渡してないがな。用意してあるのは後六枚。全部で九人、それがロックナインだ。

 戸惑いは加速する。それだけなの? それともこれが婚姻届ならぬ恋人届け? よくは分からないけれど、速井君は真っ直ぐに私を見つめている。キラキラ輝いたその瞳が離れない。

 あの・・・・ すっごく嬉しいです。・・・・よろしくお願いします。

 何故か私はそう言いながら手を差し出した。

 速井君は迷わず私の握ってくれた。

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