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開演まで数時間もあるのに、会場前はファンでごった返している。まさかいきなりこんな場所で、こんなにも多くの前でライヴをするなんて、今更ながらに緊張してくる。
おぉ、遅かったじゃんか。
会場の関係者に声をかけると楽屋に案内された。ご立派な事に、メインのバンドとは別の個室を用意されていた。それは二人の為というより、メインバンドの邪魔をしない為の意味合いの方が強いと思う。それでも羨ましい事に変わりはない。
早く来ても意味ないじゃん。リハーサルに間に合えばそれで十分でしょ。
ソファーで寛ぐ音尾君にそう言った。
本当に来たんだね?
速井君がそう言う。
来てくれて嬉しいよ。
私が無言でいると、ニコッとしてそう言う。速井君は天然だ。ステージ上でこの天然が爆発すれば大人気間違いなしね。そんな事を考えていると自然と微笑が溢れた。
なんだ、可愛い顔出来るんじゃん!
そんな事を普通に言える速井君に対して、私は真顔でこう答えた。
うん、よく知ってる。
音尾君は笑ってくれたけれど、速井君は笑わなかった。ほんの少し眉間に皺を寄せて、俺も知っていると呟いた。
コンコンッとドアが音を鳴らす。入ってますよ! 元気よく応えたのは音尾君だった。
そうかい! じゃあ失礼するよ!
テンション高い声でそう言いながら男の人がドアを開けて入って来る。
おぉ、みんな若いねぇ。今日は急に呼び出しちゃって悪いね。
彼の顔は知っている。アルバムジャケットにデカデカと写っているのを目にした事がある。本物は写真よりカッコいい。なにより背が高い事に驚いた。イメージとは違う。
彼の後ろからはゾロゾロと四人がついてくる。三人の男と一人の女。私は知らなかった。メンバーは全員男だと思っていた。
あらヤだ! 女の子がいるなんて聞いてなかったわよ! それもこんな可愛い子だなんて!
一人だけの女の人は真っ直ぐ私を目掛けて話しかけながら歩いて来る。結構な圧だったけれど、嫌な気分はしない。私もほんの少し前のめりに彼女に身を近付けていた。
あなたもベースを弾くの? 私と一緒だね? ひょっとして、私に憧れたりなんかしてる?
私は反射的に首を横に振ってしまった。
すると彼女は笑顔を膨らませた。
あんたは正直でいいね。私に憧れるには時期尚早だもの。けれどきっと、誰もが私に憧れるわよ。
彼女はそう言いながらウィンクする。
これは結果論だけれど、彼女は少し有名になり、すぐに消えてしまった。結婚をして子供を産んで引退の道を選んだ。その瞬間から、彼女への憧れを抱く女子も消えてしまった。
その演奏は楽しかったけれど、私への影響はない。残念だけれど、全くなかった。
楽しみにしているよと楽屋を去る前に言われたけれど、演奏後には会えなかった。ずっと待っていたけれど、メンバー全員が私達を避けるように帰っていった。
それでもそのバンドはそこそこ売れた。このライヴ後にメジャーデビューを果たし、テレビドラマの主題歌も歌っている。
まぁ、この日の主役は私達だったけれど。
楽屋での会話で、速井君とバンドの関係を知った。駅裏の飲み屋で知り合ったそうだ。直接速井君の歌は聞いていないようだけれど、噂なら聞いていた。飲み屋の女将からの推薦を断る理由はないと言う。人間性は別として、音楽に関しては信頼出来ると言っていた。けれど彼は馬鹿ではないようだ。いくら信頼できるとはいえ、たった一人からの助言を鵜呑みになんてしない。別の噂を聞いていたからこそ誘ったそうだ。




