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次のライヴの予定を聞かれたり、音源を聴かせて欲しいと言われたりすると、二人は必ず首を振る。音源はあるけれど、ここにはない。今度売り出すから買ってよ。ライヴの予定は調整中。次はメンバーを増やしてからって予定なんだ。目指すのは九人のロックナインだから。
チラッとだけれど、速井君が顔を向けた。
足りないパーツの一つが私だって事は明らか。あの日から私は、スタジオでも二人の背中を探してしまう。演奏に集中出来ない。あの二人ならこうするだろうなって事ばかり考えてしまう。正直言って今のメンバーじゃ物足りない。所詮はコピーバンドに毛が生えた程度。全く自分を表現出来ていない。
いきなりだけどさ、今週末にライヴなんだ。よかったら来てよ。音尾君がクラスメートにそう話しかけた。速井君も側にいたようだけれど、私に視線を送ってはこない。音尾君も声を大きくしている風ではなかった。もちろん私も、聞き耳を立てるような事はしない。
気になる事があるなら、自分で調べればいい。小さな頃からそうしてきた。だからそうしただけ。決して屈した訳ではない。ありもしない策略には嵌っていない。
そのライヴ、何処でやるの? うちじゃないよね? その日は確かお笑いライヴだった筈よ。何時から? 曲目はこの前と同じ?
私は二人の目の前に立ち、机に手を乗せてぐっと頭を突き出して睨み上げるようにしてそう言った。捲し立てたと言った方が正解かも知れない。
二人はあんぐりと口を開けていた。
周りにいた男子が笑っていたけれど、私がちょっと視線を飛ばしただけで立ち上がって消え去る。
教えないつもり?
前屈みになっていた体勢を立て直した私は、今度は腕を組んで仁王立ちする。上から二人を見下ろすのは気持ちがいい。
どうなのよって!
語気を強めてそう言った。すると二人は困惑の表情のまま見合わせて静かに一度頷いた。
それから場所と時間だけを聞いた。曲目はまだ決まっていないようだった。取り敢えず音尾君の連絡先は知っているから、速井君の連絡先だけを聞き出して自分の机に戻った。
その日はそれでお終い。何の進展もなく、私はただ不安だった。ライヴまでの時間は少ない。多分だけれど、二人の持ち時間は三十分弱だ。五から七曲は覚えなくてはならない。音源すら聴いていない状態でどうすればいいのだろうか? 前日まで私の予定は一杯だった。二人と一緒にスタジオに入る時間さえない。
音尾君からの連絡が来たのは当日の朝だった。音源とコード進行だけが届けられた。後は自由にすればいいらしい。もう迷わなかった。取り敢えずは曲を聞いてみる。
どうしてだろうか? 二人の曲は、とても自然と身体の内側に入り込んでくる。正直に言って、カッコいいだとか、いい曲だとかの感情は一切湧いてこない。二人が作った曲の筈だけれど、何故だか聞いただけで私達の曲だと感じてしまう。
きっと二人は、私の余地を見越して曲を作っている。後は私が自由に泳げばいいだけ。実際に私は水泳が得意。中二の秋まではスクールにも通っていた。そこそこ大きな大会で優勝した事もある。辞めた理由は周りから期待をされてしまったからだ。自由に泳げないなら意味がない。私はプールの中で自由を感じていた。それが好きだった。今でもたまに一人でプールに行って自由を感じる事がある。二人の曲は、まさにそんな感覚に近い。




