始末
やっぱり、スキルは便利だ。
そして、使うたびに新しい発見がある。
今も、そうだ。
これまでにも何度も使ってきたクリーンという生活魔法について、新たな知見を得られた。
水道に降りて水で全身がずぶ濡れになった状態の俺の体にクリーンをかけた。
これは、さっき倒した男の血がかかったからでもある。
汚れを落としたいという思いからで、クリーンならば一瞬できれいになるから追跡の妨げにもならないだろうと考えたのもある。
それが、思いがけない効果を生んだ。
血と水で濡れていた俺の衣服は、クリーンのおかげできれいになったのは当然として、水や血までもが無くなった。
今は完全に乾いた状態だ。
前からこうだったっけ?
以前は地下水道を出た後に臭いを気にしてクリーンを使っていただけだった。
だから、濡れた状態が変化することに今さらながら気が付いた。
最初はMPも少なく、クリーンは一度しか使えなかった。
そのために検証もできなかったしな。
だから気づけなかったとしても仕方がない。
そんな言い訳を、心の中で呟く。
ま、いずれにせよ、これはありがたい。
濡れたままで男を追いかけるのも体力を使うし、走りにくい。
それが解消できるというだけでも十分な効果がある。
隠密スキルはどうだろう?
さっきは、目を押さえていたやつを小剣で倒したけれど、向こうに俺の存在が気づかれた様子はなかった。
あのときは全身濡れていたから全くの無音ではなかったはずだ。
相手の状態が悪かったとはいえ、多少の物音なら隠密状態では気づかれないのかもしれない。
追いかけるときには走ろうか。
少なくとも水が滴る音はなくなるのだから、俺が追いかけていることには気づきにくいはず。
だが、一応念のためにも足音はなるべく出さないようにはしてみよう。
歩道を走り出した俺は、着地の音を殺すよう意識しながら進む。
すると、今までとは比べものにならないほど、動きが洗練されていた。
これもスキルのおかげだろうか?
調理スキルを使えば目にした食材の調理法が理解でき、上手に料理できるようになるのと同じように、隠密スキルを持っている状態では足音を立てずに走るのがうまくなるのかもしれない。
自分でも静かに走れている感覚があった。
そんなふうに音もなく歩道を走る俺は、先に逃げたはずの男へとすぐに追いつく。
足の火傷は相当なダメージだったようだ。
片足を引きずるように逃げていた男へといくつか角を曲がるだけで、すぐに追いついた。
後ろから駆け寄る俺に、男はまったく気づいていない。
隠密スキルの効果は十分に発揮されているようだ。
ここでわざわざ声をかけるような真似はしない。
一声かけて相手を振り向かせて、しかし隠密状態で気づかれない俺が格好良く倒す、なんてやり方もあるのかもしれないが、そんなリスクを負う気はなかった。
最初からの予定通り、相手が気が付いていない状態で一撃必殺だ。
追いついた俺は小剣を突き出して男の背中から剣を突き立てた。
音は、ほとんどなかった。
ただ、剣が肉を裂く感触だけが手に残る。
「ガハッ。な、なんなんだよぅ、これは……。俺がなにしたって言うんだよ」
グサリと胸を貫く小剣。
それを見て男が声を発する。
何をしたも何もないだろう。
それよりも、隠密状態でも、一撃を入れればこちらの存在には気づかれてしまうのかもしれない。
後方から突き刺さった小剣が胸の前方から飛び出したのを見て、男がこちらへと振り向いた。
それを見て、念のため、剣を捻る。
突き刺したままの小剣をグリュっと回転させて肉を巻き付け、そして引き抜いた。
それが決定打になった。
恨めしげな視線を向ける男を見届けながら、俺は再び全身にクリーンをかけ、小剣を鍛冶スキルで研ぎなおした。
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