冷静
「あのガキ、絶対に見つけ出して落とし前つけさせてやるからな」
足を火傷した男が、地下水道の歩道を足を引きずりながら歩いていく。
その後方では、二人の男が汚れた床にうずくまっていた。
それを見届けた俺は、静かに動き出す。
まず、狙いを定めたのは行動不能に陥った二人のほうだ。
俺だって今までに喧嘩をしたことはある。
孤児院では幼い子どもたちが小さく狭い建物で共同生活をし、その監督役である院長は一人だ。
全員が仲良く暮らすなんてことは不可能で、日常的に叩いたり叩かれたりということがあった。
だが、それとは違う暴力を行使する。
理由は、俺の手にある小剣だ。
これは孤児が持つような代物ではない、しっかりとした金属製の剣で、攻撃力は高い。
これで切ったり突いたりしたら、確実に大けがを負う。
これを人に向けて使ったことは、まだ一度もない。
怖い、とは思わない。
今後自分が負うリスクを考えると、俺を襲い、反撃してきた俺を許さないと言う連中を攻撃することには何も感じない。
だが、この武器を向けられる側になるのは怖い。
足を火傷した奴が万が一この小剣を俺から奪い取って使ってきたらどうしようかと考えたのだ。
やるなら、一撃で仕留める必要がある。
相手が反撃できないように、気づかれないうちに攻撃を終えることが重要なのだ。
そのためには、人に向けて使う経験が必要だった。
そこで、動けない二人をターゲットにした。
一人が恨み言を吐きながら地下水道の出口へ向かっていく。
その気配が十分離れたことを察知して、俺は動いた。
隠密スキルを発動したまま、倒れた二人のもとへと駆け寄った。
水路から這い上がり、水を滴らせたまま走る。
当然、水の音や走る足音が聞こえているはずだ。
だが、瀕死のほうはともかく、目を押さえて叫ぶ男は俺に気づかない。
隠密スキルが発動している間は多少の音ならば気づきにくくなるのか?
それとも、相手がそんなことに注意を向けられない状況だからだろうか。
そう考えながら、二人へと近づく。
ためらいはなかった。
小剣を、突き出す。
目を押さえながら歩道に膝をつきうめく男の首筋めがけて真っすぐに小剣の剣先を突き刺した。
ズブリ、という感触だけが手に残る。
やはり、この小剣は拾い物にしてはいい状態だったのだろう。
首の骨が当たったことで抵抗を感じたが、人の首を貫くには、十分すぎる鋭さだった。
ゴポッという音がして、男の口から血があふれ出る。
目を押さえていたはずが、その両手は自身の首元へと向けられて剣を掴もうとしていた。
真っ赤に充血していた両目を大きく開いて、驚愕の表情を浮かべている。
そのまま、剣を引き抜く。
ぬるりとした感触とともに、小剣が首から抜きとられ、その傷口から勢いよく血が噴き出した。
慌ててその血を避ける。
が、避けそこなって俺の足にかかってしまった。
こいつ、変な病気を持ってないよな?
血が自分の体にかかったのを見て、俺がとっさに考えたのはそんなことだった。
……なんだこれ?
まるで、他人事みたいだ。
なんでだろう?
少なくとももうちょっと精神的に嫌な感じを受けるかもしれないと考えていたのに、それがまったくない。
もしかすると、健康スキルのおかげかな?
健全な精神は健全な肉体に宿る、なんて言葉を思い出した。
健康スキルがあるおかげで落ち着いていられるとか、そんなことがあるんだろうか。
わからないけど、まあいいか。
もう一人、口から泡を吐いて動かなくなっていた男のほうを見ると、そいつはもう息をしていなかった。
息絶えていることを確認すると、俺はクリーンで全身を洗浄し、最後の一人を追って走り出した。
―――残り一人。
逃がさない。
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