隠密
「なにか証拠でもあるの?」
「ああ? グダグダうっせえぞ、クソガキ。さっさとそれを渡せばいいんだよ」
時間稼ぎのため、再び口を開いた俺。
そんな俺に対して、最初に声をかけてきた奴とは別の男が怒鳴り声をあげた。
どうやら短気な奴がいるらしい。
こいつは話し合う気などなく、力づくで俺を痛めつけて小剣を奪うつもりらしい。
三人の男は、じりじりと距離を詰めてきた。
確信した。
こいつらは小剣の落とし主で、元の持ち主ではないし、善人でもない。
俺にとっては明確な悪人だ。
つまり、俺の敵だ。
敵であれば倒すか、撃退する必要がある。
が、問題は俺がクッソ弱いことだ。
こいつらが高名な冒険者の可能性は、おそらくゼロだろうが、俺よりも強いのは間違いないと思う。
俺のステータスは、一年間見習いを務めた子どもにすら大きく見劣りしている。
普通の大人が三人もいれば、俺を叩きのめすくらい造作もないだろう。
だから、俺にとってのこの場の勝利条件は喧嘩に勝つことではない。
無傷で逃げ切ること。
だが―――どうやって?
袋小路に追い込まれ、出口を三人に塞がれたこの状況で、逃げ切れるのだろうか。
そのときだった。
ふいに、視界の端に文字が浮かび上がる。
【SKL:隠密(SPを10消費して獲得可能。気配を遮断し、発見されにくくなる)】
必死に考えていると、ステータスに新たな表示が浮かんだ。
今の俺には願ってもないスキルだった。
逃げるのに役立ちそう。
俺は迷わず隠密スキルを取ることを選択した。
だが、これだけで逃げ切れない。
というのも、この隠密スキルは相手から発見されにくくなる効果はあるのだけれど、今の状況はすでに見つかっている状態だからだ。
三人が俺を見ている状況で隠密スキルを使ったら俺を見失う、なんてことにはならないようだ。
つまり、一度相手の視界から消える必要がある。
そんなことができるのだろうか。
三人とも下卑た笑みを浮かべて俺を見据えている。
そいつら全員の視界から姿を消すようなことがはたして可能なのかどうか。
いや、やらなければならない。
人目のない地下水道で、人のものを奪う連中に襲われたらどうなるか分かったものじゃない。
きっと小剣だけじゃなく、鍛冶スキルできれいにした短剣や、ネックレスに通して首にかけている収納の指輪まで奪い取られるだろう。
そして俺は、殺されるか、気絶するまで殴られて、この地下水道に放置される。
こんな地面の下に広がる地下水道の行き止まりの通路なんて、ほかの人はめったに来ないだろう。
となると、誰にも見つからないまま息絶え、そのうちスライムに喰われる。
そんな未来は嫌すぎる。
なんとかしないと。
最悪の未来を想像し、ぶるっと身を震わせた俺は、そのイメージを振り払うように気合を入れなおして、動き出した。
地下水道にある左右の歩道部分と、その中央にある水道部分。
俺は覚悟を決めた。
そして―――
汚水の流れる水路へ飛び込んだ。
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