狙い
真っ暗な地下水道で俺を尾行してくる連中が、まともなわけがない。
そう判断した俺は逃げることにした。
察知スキルで感じる気配は三人分。
その三つが俺の後方からまとまって接近してきている。
逃げるしかない。
そう判断した俺は、そいつらとは反対の通路へ駆け出した。
「はっはっは。残念だが、そっちは行き止まりだ」
だが、相手のほうが一枚上手だった。
これまで尾行してきていた相手が足音を気にせずに走り寄ってきたのは、ここの地形を把握していたかららしい。
走り込んだ先で、俺は足を止めた。
行き止まりだった。
俺が逃げた方向の通路は、袋小路だったようだ。
どうやら、地上から地下水道に汚水を流し込むための場所のようで、上から汚水が流れ落ちてくるだけで、その先へは進めない。
俺が入ってきた通路をふさぐように、三人の男が立ちふさがった。
「なにかよう?」
「ああ。お前、いい剣を持っているみたいじゃねえか。実はそれ、俺のなんだわ。返してもらおうか」
三人の男がゆっくりと近づいてくる。
逃げ道は、もうない。
これ以上は逃げられない。
背中にじわりと嫌な汗が滲んだ。
そういう状況に追い込まれた俺は、それでも逃げ道はないかと考えながら男たちへ声をかけた。
まともな返事が返ってくるとは思わなかったが、相手は自分たちの優位性を確信しているのか返事を返してきた。
いい剣、というのは俺の小剣のことかな?
確かにこれはいい武器だ。
少なくとも、貧民街にあるジャガ婆の店でもいい値段で買い取ってくれるし、これを店で買おうと思ったらさらに値が張るからな。
そのうちの一人が、それは自分のものだと言い張った。
嘘だな。
あり得ない。
この小剣は地下水道の水の中で見つけたものだ。
ほかのナイフなどであれば錆びついている状態で、いつ落ちたかわからない状態だった。
だが、これは違う。
俺が鍛冶スキルで新品同様にする前からも、しっかりと使えるきれいな状態で落ちていた。
もしこれを落としたのならば、すぐに回収したはずだ。
剣はそれなりの重さがある。
地下水道には水の流れがあるとはいえ、落とした後すぐに回収しようと思えばできたはず。
それに、相手の表情を見れば嘘だとわかる。
本当に自分が落とした小剣を見つけたなら、もっと真剣な表情をしているだろう。
そいつだけでなく、ほかの二人まで下卑た笑みを浮かべている時点であり得ない。
となると、俺が状態のいい剣を持っているのを知って、それを狙ってきたと考えたほうがいいだろう。
多分、これはあっていると思う。
だが、どこで見たんだ?
今日、地下水道へ向かう俺を偶然見かけ、そのまま尾けてきたのか?
いや、違うな。
薄暗い地下水道内で遠くにいるそいつらの顔を見ていると、ふと思い出した。
こいつらの俺に絡みつくような視線と気配には覚えがある。
多分、こいつらは木宿の大部屋にいたんじゃないだろうか。
俺が一晩だけ泊まった、貧民御用達のぼろくて安い宿だ。
そんな宿の大部屋でほかの誰とも知らない連中と同室で一夜を明かしたが、眠れたものじゃなかった。
俺が抱えた小剣を包んだ布を盗もうとする気配で夜中に何度も目が覚めたからだ。
俺が大事そうに抱えこんでいたのもよくなかったのかもしれない。
金目のものと判断した連中が、その後も俺を探したのか、あるいは歩いている姿を目にしたからなのか。
はたして、真実はわからない。
が、今日の俺はその布で包まれたものと同じ長さの小剣で、魔ネズミを切り裂いている姿を見て、見事獲物認定されてしまったのだろう。
どうしよう?
素直にこの小剣を渡したところで、引いてくれるのだろうか?
ほかにも何か持っていると思われ、袋叩きにされる可能性も十分ある。
いやらしい目つきで俺を見つめる連中を前に、俺は必死に考えていた。
――この状況、どうやって切り抜ける?
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