許可
「そのパン、一つもらってもいいかしら?」
「え、あ、うん。どうぞ」
俺の突然の提案に対して、それを聞いたサリーママは、返答するのではなくパンを要求した。
真剣な表情だ。
垂れた金髪を指で軽く払って横に流しながら、俺のパンを一つ手に取り、その小さな口へと運ぶ。
サリーママはパンを一口かじった。
そして、少しだけ目を見開く。
「……おいしい」
思わず本音が漏れたような声だった。
サリーママはゆっくりとパンを咀嚼する。
「おいしかったわ。確認したいのだけれど、本当に料理人になる気はないのね? こんなにおいしいパンを作れるなら、パン屋さんでもいいと思うけど」
「うん。それも魅力的だとは思う。でも、駄目なんだ」
「そう……。わかったわ。あなたが、ただ仕事をしたくないから言っているわけじゃないことはわかっているわ。けど、ここは孤児院だからずっとここに住むわけにはいかないわよ?」
「それも分かっているよ。しばらくの間は、ってことでお願い。毎日、朝と晩の食事を作るから、どうかここに居候させてほしい」
「そうね。ジャガさんにあなたへ帰ってきてって伝言したのは私だしね。いいわよ。いつまでいられるかは分からないけれど、当面の間は居候を許可します。そのかわり、食事の用意とお部屋の掃除もすること。いいわね?」
「はーい。ありがとう、サリーママ。大好き」
サリーママからの許可が出た。
「いいわよ」という一言で、胸の奥が少し軽くなった。
気づけば掃除まで条件に含まれていたが、それもいいだろう。
クリーンを使えば、各部屋を掃除しても大した時間はかからない。
それよりも、俺の渾身の告白があっさりスルーされてしまった。
皆のお母さんであるサリーママは、実はみんなのアイドルでもある。
当然、俺も年上のお姉さんとしてサリーママのことが好きなんだが、はいはい、とあしらわれてしまった。
「じゃあ、今日から早速コックさんには子どもたちの料理を頼もうかしら。ああ、それとあなたが食べた分の野菜は補充もしておいてね? 食べたものが体を作るんだから、頑張って安くてもいいお野菜を買ってきているのよ」
「献立にも気を遣えってことだよね。オッケー。今の俺は食材鑑定もできるから、任せておいてよ」
確かにサリーママの言う通りだろう。
食べたものが人の体を作る。
それは暴食スキルなんてなくても同じことだ。
そう考えると、子どもたちの好きな物ばかりを作るわけにもいかないか。
いざ、自分が料理人に立候補してみて初めて気が付いた。
サリーママの作る料理は飽きずに食べられるし、子どもたちのことが考えられていた。
孤児院の経営的にお腹が満足するくらい食べられる日はほとんどないし、食べられないような日もあった。
それでも、いろんな年齢の子がいるこの孤児院で、皆に気を配って食事の用意をしていたんだ。
それも、子どもたちの世話も見ながら。
大変なことだと思う。
だからこそ、なおさら俺は自分の申し出が受け入れられたことがよかったと思う。
忙しいサリーママの負担を減らせるってことだしね。
とりあえずは、今日の献立か。
といっても、実際は今日作るものはすでに決まっているはずだ。
サリーママは買い出しの時点で、今日の献立を決めていたはずだ。
なので、今日の献立を確認しながら、俺は早速調理を開始したのだった。
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