突然の提案
ガツガツという言葉がぴったりなくらいの勢いで、作ったばかりのパンとスープを食べる。
腹が減っているからというのもあるし、それに、この肉団子スープを他の子たちに見つかるとまずい。
小麦粉から作ったパンはともかく、肉団子は原料が魔ネズミだから毒性が残っているのだ。
もしこれをほかの子たちが食べたら、翌日には孤児院の子どもたちが全員食中毒で腹を下すことになってしまう。
パンをちぎって口へ放り込み、熱々のスープをすすった。
「……うまい」
気づけば、もう次のパンへと手が伸びていた。
空腹が止まらない。
が、調理スキルで作ったスープはアツアツで、暴食スキルがあるとはいえ、さすがにそのまま一気に食べることはできない。
フーフーと息を吹きかけて冷まし、すぐに食べる。
それを何度も繰り返した。
しかし、間に合わなかった。
すべての料理を食べきる前に調理場の外から誰かが近づいてくる気配を感じた。
「あら? そのパンはどうしたの? ずいぶんおいしそうな匂いがするわね」
「あ、サリーママ。ちょうどよかった。このパンは俺が作ったんだよ。皆で食べて。その代わり、野菜をちょっともらったよ」
「野菜を? っていうより、この部屋はどうしたの? びっくりするくらいきれいになっているじゃない」
調理場へと入ってきたのはサリーママだった。
サリーママは調理場の中を見渡し、ぽかんと口を開けた。
「……ちょっと待って。ここ、さっきまでこんなにきれいだったかしら?」
なんて呟いて、部屋の中を見回している。
俺はその間に、毒が含まれている危険な料理である肉団子スープをとっさに鍋ごと収納の指輪に入れて隠した。
そのかわりに残ったパンがまだ結構な数がある。
それを皆で食べていいと言うが、そんなことよりもサリーママは見違えた調理場の様子が気になって仕方がないみたいだ。
驚きながら中に入ってきて、さらに俺の手元にあった包丁などに気づいて声を上げる。
「……ルーク。そこに座りなさい」
「え、はい。どうしたの、サリーママ?」
「どうしたの、じゃないでしょう。これはどういうことなのかしら? 包丁もお玉も鍋も、フライパンまで全部新品になっているじゃない。まさかとは思うけど、あなた、盗んできたんじゃないでしょうね?」
「違うよ。俺が全部研いだりしてきれいにしたんだ。新品みたいに見えるけど、どれももともとこの孤児院で使っていたものだよ。ほら、そこの包丁の持ち手のところだって、昔からある傷がついているでしょ?」
「……確かに、ここの部分だけを見るとそうね。でも、本当にそんなことができたのかしら? あなたが帰ってきてから包丁ひとつを研いでも、ここまできれいにする時間はなかったはずよ」
「あー、それはほら。あれだよ。俺のスキルのおかげさ」
「スキル? これ全部、スキルの力でやったの? もしかして、調理場をきれいにしたのもそうなのかしら?」
「そうなんだ。実は俺、料理をしたりするスキルを手に入れたんだよ。その代わり、ものすごくお腹が空くっていうデメリットもついちゃったんだ」
「へえ。そんなことがあるのね。っていうことは、ルークは冒険者じゃなくて料理人になるってことなの?」
あまりに激変した調理場の環境。
それを見て、サリーママがまず第一に発したのは新品同様の調理道具が盗品ではないかということだった。
やっぱりきれいすぎる道具は俺が持つのに違和感があるんだろうな。
新品同様のナイフを売ろうとしたとき、ジャガ婆にも同じことを言われたが、サリーママにもそう思われたらしい。
だが、そんなことは決してない。
俺は盗みなんてしていない。
なので、そうではないと力説する。
俺が得たスキルの力でやったことだとサリーママへ話した。
それを聞いたサリーママは、俺が冒険者ではなく料理人になったのかと尋ねた。
そうではない。
俺は暴食スキルがあるからもっともっと食べたい欲求がある。
調理スキルがあるから料理をする仕事にはつけるかもしれないけれど、それでは全然食べ足りないだろう。
それに、食べたものによってステータスも上がる暴食スキルがある以上、もっとステータスを上げたいという気持ちもある。
が、それはそれとしてひらめいたことがあった。
俺は少し考えてから口を開いた。
「サリーママ。ひとつ相談があるんだ」
俺はこの時思いついたことをその場でサリーママへと伝えることにした。
「俺を料理人としてこの孤児院で雇ってくれないかな? 報酬はいらない。ただ、今までどおりベッドで寝る許可が欲しいんだ」
宿暮らしもいいけれど、木宿の大部屋は決して快適なものであるとは言えない。
それならば、むしろこの孤児院で今までのように生活できたらどれほどいいか。
この孤児院に帰ってきてからそう強く感じていた。
が、さすがにそんなに甘いわけにもいかないだろう。
孤児が巣立っていかないと孤児院の経営が圧迫されていくからだ。
一定年齢を超えた孤児は仕事を見つけて出ていかないといけない。
それがこの孤児院でのルールだ。
が、ここで料理人として働く代わりに寝泊まりしたいというのはどうだろう。
スキルの力があれば、料理は一瞬で終わる。
日中は地下水道へ行き、夜は孤児院で料理を担当する。
そんな生活はできないだろうか。
そんな都合のいい提案を、俺はサリーママにしてみたのだった。
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