調理場変貌
チャリン、と俺の首元で音が鳴った。
収納の指輪だ。
俺の指に合わなかったこの指輪をどうするか考えた。
鍛冶スキルを使えば多少サイズを調整できるかもしれない。
だが、これが魔道具だというのが気になった。
もしも、下手にいじって収納の能力が消えてしまうようなことがあれば困る。
が、いつまでも鞄の奥に入れておくのはせっかくの便利な道具を使わないままになってしまう。
というわけで、肌身離さず持つことができ、かつ、落としたりしないようにするために俺はチェーンを作り、そこに指輪を通すことにした。
チェーンは鍛冶スキルを使って自作した。
首元に収納の指輪があるので、いつでも物の出し入れができる。
そんなふうに指輪に意識を向けながら俺がやってきたのは孤児院の調理場だ。
かまどがあり、水瓶が設置されている調理専用のスペースだ。
一日地下水道で歩き回ったために、空腹耐性スキルが悲鳴を上げそうなくらい、腹が減っている。
今の状態でほかの子どもたちの面倒を見るのは無理だ。
なので、ここで何かを作って食べていくことにした。
が、ちょっとこの調理場の汚れが気になってしまった。
普段からサリーママがこまめに片づけて、掃除をしている。
そのため、ものすごく汚れているわけではないが、年季の入った建物で、とてもきれいとは言えない。
また、使っている道具もかなり古い。
包丁や鍋、フライパンなども見るからに古びている。
さっき部屋の掃除をして一度にきれいになったことを思い出した。
また、ジャガ婆の店で売るために地下水道で拾ったナイフを新品同様に変えたことも頭に浮かぶ。
せっかくだ。
新たに得た俺の力で、この調理場をきれいにしてみよう。
そうすれば、ここにある食材を少しくらい使っても文句は言われないだろう、という打算もあった。
俺が自前で持っている食材が魔ネズミの肉団子と今日の稼ぎで購入した小麦一袋しかなかったからだ。
肉団子を使ったスープとパンを作るつもりだが、そのスープの中に野菜もいくつか入れたいしな。
ぶっちゃけ、それが目的で調理場にまでやってきた。
単に料理を作るだけなら俺の場合は調理スキルで焼いたり煮たりできるので、場所を選ばない。
確か今日は買い出しの日で食材も置いてある。
あとで必ず補充すれば問題ないだろう。
そんなわけで、クリーンを使って調理場全体をきれいにする。
「クリーン」
その瞬間だった。
調理場の空気がふっと軽くなる。
壁のくすみが消え、床の汚れがすっと消えていく。
まるで時間が巻き戻ったみたいに、古びた調理場が生まれ変わった。
かまどで火を熾すことから煤や灰の汚れがあったがそれらが取り去られ、ほこりもなくなり、カビも消えた。
部屋のときと同じように、調理場もクリーン一回できれいになった。
多分建物全体をきれいにすることはできなくても、小さな部屋くらいなら大丈夫っぽいな。
そして、調理場の掃除が終われば、次は調理道具の整備だ。
切れ味の悪くなっていた包丁を研ぎ新品同様に変える。
包丁の刃を指先でなぞりながら鍛冶スキルを発動する。
シャッ、と刃が鳴った。
指先に伝わる感触だけで分かる。
「……いいなこれ」
刃が新品みたいに蘇っていた。
少し曲がったお玉なども鍛冶スキルを使って整え、鍋やフライパンに至っては食材がくっつきにくいような加工もしておいた。
うん、見違えたな。
あっという間に生まれ変わった調理場を見て、俺は満足げにうなずく。
そして、調理場に保管してあったいくつかの食材を調理台の上に拝借し、魔ネズミの肉団子と合わせた野菜たっぷりスープを鍋いっぱいに作る。
そのほか、できたてほかほかのパンを小麦粉一袋から作れるだけの量を一気に作り上げた。
完成した瞬間、俺は立ったまま夢中で食べ始めた。
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