孤児院に帰る日
「そういえば、今朝サリーがここに来たよ。その時にあんたのことを話したら、帰ってこいって伝言があった。今日は孤児院に帰るこったね」
収納の指輪が自分の指に合わず、仕方なく鞄の奥に隠すようにしまっていた。
そんな俺に、ジャガ婆が声をかけてきた。
サリーママからの伝言らしい。
俺が育った孤児院の院長だ。
もともと俺がこの店に来る予定はなかったから、本当にたまたま会話の中でジャガ婆が持ち出したのだろう。
そして、それを聞いたサリーママは驚いたらしい。
まあ、それもそうか。
本来であれば、俺は昨日冒険者ギルドで見習いを卒業して正式に冒険者となるはずだったのだ。
それが見習いどころかギルドからの追放をされたことで、逆に独り立ちすることに決めた。
が、もともとの予定としては昨日は見習い卒業を報告しに孤児院に戻るはずだったのだ。
送り出した孤児が一日待っても帰ってこず心配していた。
それが、次の日になじみの店へ来たら、俺が朝早くからそこへ立ち寄っていたと聞いて驚いたのだろう。
ほかにも孤児はいるし、やるべき仕事も多い。
自分では探しに行けないから、伝言を頼んだらしい。
まあ、それもサリーママが優しいってことなんだろう。
一日帰ってこなかったとはいえ、俺ももう孤児院を出てもおかしくない年齢だ。
遅かれ早かれいなくなるのだから、早めに部屋のスペースが空いてラッキーくらいに思われても仕方ない。
が、わずかとはいえ俺の荷物もちゃんと残してくれているらしい。
今日は孤児院へ帰ることにしよう。
「ありがとう、ジャガ婆。それじゃ、今日は孤児院に戻るよ」
「ああ。そうするんだね」
ジャガ婆へ礼を言って孤児院へと向かう。
孤児院まではそれほど遠くない。
店を出て、貧民街を出るところにある孤児院までの道のりを俺はのんびりと歩いて帰ったのだった。
「ただいまー」
「あー、ルー兄だー。家出のルー兄が帰ってきたー」
「ほんとだー、ルー兄だー!」
「家出したんでしょ!」
「違うっての」
ぼろぼろの孤児院の扉を開けて元気よく声をかける。
すると、すぐに大きな声が返ってきた。
孤児の一人で俺よりも年少の子どもだ。
どうやら、俺は家出したことになっているらしい。
まあ、それに近いかもしれない。
実際、そう思われてもおかしくない。
俺が弱すぎるという理由で冒険者ギルドを追放されたことは、もう知られているんだろう。
なぜなら、俺以外にも今年冒険者見習いを卒業予定の子どもはいたからだ。
そいつらは普通に一年間の見習い期間を経て、昨日鑑定を受けてギルドへと正式加入したはずだ。
俺は追放を言い渡されて呆然としたままギルドを出たから覚えていないが、多分あの場にもいたんじゃないかと思う。
そいつが昨日孤児院に戻って事情を話していれば、俺が家出をしたと思われても仕方ない。
「あら、おかえりなさい。思ったよりも元気そうね。早く入ってらっしゃい」
「あ、サリーママ。ただいま」
玄関入口で突っ立っていると、奥から一人の女性が姿を現した。
小さな女の子に手を引かれて出てきたのが、この孤児院の院長――サリーさんだ。
皆の母親代わりだからサリーママと呼ばれている。
ちなみに先代の院長が亡くなったことで数年前に後を継いだので、サリーママは若い。
結婚もしておらず子どももいないのに、「ママ」と呼ばれることについては、以前愚痴を聞かされたこともある。
よかった。
胸につかえていたものが、少しだけ軽くなる。
そんなに怒っているわけじゃなさそうだな。
玄関で出迎えてくれたサリーママの様子を見て、ひとまず俺はホッと息をついた。
今日は、ここに泊めてもらえないか頼んでみよう。
木宿の大部屋で泊まるお金を得たけれど、ぐっすり眠れなかったことを思い出した。
それと同時に、この孤児院がいかに俺にとって落ち着く場所なのかをサリーママの顔を見ただけ、実感したのだった。
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